機能低下型SCN5A変異の長期生命予後を比較
国立循環器病研究センターは7月6日、心臓突然死の原因のひとつであるブルガダ症候群(BrS)において、機能低下型SCN5A変異が突然死の遺伝的リスクとなることを世界で初めて示したと発表した。この研究は、同研究センターの蒔田直昌研究所副所長らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Heart Journal」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
BrSは、心電図V1-3誘導のST上昇を特徴とし、重症不整脈の発症によって突然死をきたす、まれな遺伝性不整脈。健康な青壮年男性が夜間突然死する「ぽっくり病」との関連が疑われている。
約15%の症例では、心筋NaイオンチャネルSCN5A変異が同定されており、研究グループは2017年、この変異が突然死の遺伝的リスクとなることを明らかにしている。しかし、この中にはNaチャネルに影響をもたらさない機能的に良性のバリアントが含まれている可能性があり、実験的に機能低下を示す悪性SCN5A変異を選んで遺伝的リスクを正確に検証する必要があった。またSCN5A以外の遺伝子について、レアバリアントが持つ遺伝的リスクはこれまで検討されていなかった。
そこで今回、日本人BrS患者415人から同定した55個のSCN5A変異が心筋Naチャネルに機能的な影響を与えるかどうかを電気生理学的な解析法「パッチクランプ法」と文献検索を用いて調べ、45個が機能低下型変異であると判断。長期生命予後を比較した。
突然死のリスクとなる遺伝子、SCN5A以外にない
その結果、機能低下型変異を持つBrS患者45人の致死性不整脈の発生率(年間7.9%)は、それを持たない370人(年間2.1%)やBrS全体(415人、年間2.5%)より有意に高く、また55個のSCN5A変異保有者60人の致死性不整脈発生率(年間5.1%)よりも高いことが判明。このことから、機能低下型SCN5A変異が突然死の確実な遺伝的リスクであること、SCN5A変異に実験的に機能低下を見出すことにより遺伝的リスクとして重みづけが可能になることが初めて明らかになった。
さらに、別のBrS患者288人の全エクソン解析を実施。SCN5A以外のレアバリアントについて検討したが、突然死のリスクとなる遺伝子はSCN5A以外にないことがわかったとしている。
機能解析による重症度評価確立で、BrS患者の個別リスク予測に期待
現在知られているSCN5A変異の約70%は臨床的意義が不明だが、機能解析による重症度評価の確立によって、BrS患者の個別リスク予測が可能になるという。
また、BrSの85%を占めるSCN5A陰性症例の病因を解明するために、全ゲノムシークエンスなどによるさらなる網羅的ゲノム研究が望まれる、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース