ユーグレナ/ユーグレナ含有のパラミロンを3週間経口投与
東京大学は7月1日、胃がんを自然発症する疾病モデルマウス(A4gnt遺伝子欠損マウス)を用いて、ユーグレナの経口摂取が胃がんの初期過程に及ぼす影響について検討し、その結果を発表した。この研究は、同大大学院農学生命科学研究科獣医学専攻の平山和宏教授、角田茂准教授らと、株式会社ユーグレナなどとの共同研究によるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
胃がんは、日本では年間約12万9,000人に発生し、約4万3,000人の死亡原因となっている。今では胃がんは必ずしも死に直結する病ではなくなってきているが、生存率はいかに早期にがんを発見できるかに依存する。胃がんの発生や進行を遅らせることができれば、胃がんによる死亡をさらに減らすことが期待できる。
ユーグレナは動物と植物の両方の性質を持つ微細藻類で、その健康効果のために食品やサプリメントとして広く利用されている。研究グループは、胃がんを自然発症する疾病モデルマウス(以下、胃がんモデルマウス)を用いて、ユーグレナまたはユーグレナの成分の1つであるパラミロンという物質の経口投与が胃がんの初期過程に及ぼす効果について検討した。雄および雌の10週齢の胃がんモデルマウスにユーグレナまたはパラミロンを3週間毎日投与して、その効果を観察した。
このモデルマウスの胃がんは、「慢性的な炎症による胃粘膜の増殖亢進(過形成)→異常な細胞の増殖(異形成)→がん」というヒトの胃がんによく見られる過程と同じ進行をするのが特徴だが、今回の研究で用いた10~13週齢は、初期病変である胃粘膜の異形成が見られる前がんステージだった。
ユーグレナの投与でCD3陽性Tリンパ細胞の数が有意に減少
3週間にわたるユーグレナまたはパラミロンの投与で、正常なマウスに比べて胃がんモデルマウスの胃粘膜で顕著に増加するCD3陽性Tリンパ細胞の数が有意に減っているのが観察された。同じく炎症にかかわる多形核白血球にも減少する傾向が見られた。
ユーグレナの投与は胃粘膜上皮細胞の増殖を促進するサイトカインであるIL-11と炎症を促進させ、がん細胞の転移や浸潤の能力を高めるケモカインであるCxcl1の遺伝子の発現を抑制していたこともわかった。しかし、組織学的には、胃粘膜の異形成や細胞の増殖に明らかな効果を示さなかった。
炎症抑制効果は、パラミロンよりユーグレナで顕著
一方、パラミロンを投与した胃がんモデルマウスでは、胃粘膜のCD3陽性Tリンパ細胞を減少させ、IL-11と炎症にかかわるケモカインであるCcl2の遺伝子発現を抑制したが、その効果はユーグレナの投与ほど顕著ではなかった。このことは、ユーグレナの炎症を抑制する効果はパラミロンだけでなく、ユーグレナに含まれるさまざまな成分も重要な役割を持っていることを示唆している。また、ユーグレナの投与は胃がんモデルマウスの小腸内のIgAの産生を促進した。
今回の研究は、胃がんモデルマウスの初期病変に対するユーグレナの効果を検討したもので、胃がんの発生を直接観察したものではないが、ユーグレナの摂取が胃粘膜の炎症を抑制することで、将来の胃がんの発症を抑えることができる可能性を示唆している。「今後、胃がんが発症するまで長期に効果を観察する実験により、ユーグレナの抗がん効果が明らかにされることが望まれる」と、研究グループは述べている。
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・東京大学大学院農学生命科学研究科·農学部 プレスリリース