母親の精神的不調や愛着が子どもの歯磨き習慣に及ぼす影響は不明だった
東北大学は7月2日、母親が産後うつを経験した場合、子どもが2歳時の歯磨き回数が少なくなっており、子どもの歯磨き習慣の確立に母親の精神的要因が影響することが明らかになったと発表した。この研究は、同大病院の土谷忍助教、五十嵐薫教授、有馬隆博教授、八重樫伸生教授、医学系研究科の門間陽樹講師、医工学研究科の永富良一教授、東北福祉大学保健看護学科の土谷昌広教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Community Dentistry and Oral Epidemiology」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
毎日の歯磨き習慣は、子どものむし歯を効果的に予防することができるとされている。国際小児歯科学会では、1日2回以上、フッ素入り歯磨剤を使用して歯磨きすることを推奨している。しかし、乳幼児期の歯磨き習慣(仕上げ磨きや歯ブラシの練習など)は親の努力による部分が大きく、親の精神的不調(産後うつ)や子への愛着(対児愛着:ボンディング)に強く影響を受けることが予想される。
しかし、これまでの研究では、母親の精神的不調や愛着が子どもの歯磨き習慣に及ぼす影響について、十分に検討されていなかった。
産後うつを経験した母親の子では歯磨きを毎日しないリスクは約2倍、愛着障害がある場合も回数が減少
研究グループは今回、周産期における精神的な不調として、産後うつ(産後1か月と6か月)、母親の愛着(1歳時)に着目し、子どもの歯磨き回数(2歳時)との関連について検討した。エコチル調査へ参加している約10万組の母親と子どもを対象とし、産後1か月および6か月時の母親の産後うつについて調査した。また、10項目からなる自己記入式質問票「赤ちゃんへの気持ち質問票」を使用し、産後1年時の母親の子への愛着についても評価した。子どもの日常的な歯磨き回数は2歳時の回答を用い、毎日2回以上のグループを基準に、1回と1回未満(毎日は磨かない)のグループとの比較を行った。
その結果、母親の産後うつの経験と子どもの歯磨き回数の減少に相関が認められた。特に、産後うつを経験した母親の子どもでは、歯磨きを毎日しないリスクは約2倍だったという。また、母親の愛着の検討では、良好な場合には子どもの歯磨き回数も多く、反対に対児愛着障害が認められた場合には、子どもの歯磨き回数も少なくなることが明らかになった。
産後うつや子への愛着の評価が、将来的な子のむし歯のリスク評価の指標となる可能性
今回の研究成果により、母親の産後うつや子への愛着といった精神的因子が子どもの歯磨き回数と関連することが解明された。成長期における正しい生活習慣の確立は非常に重要とされ、この時期に確立された生活習慣は生涯に渡って影響すると考えられている。歯磨き習慣はむし歯だけでなく、食生活や睡眠といった習慣にも繋がる大事な健康行動の一つ。今後、将来的な子どものむし歯のリスク評価において、親の産後うつや子への愛着を評価することが一つの指標となることが推察される。
「良好な愛着形成が子どもの歯磨き習慣を定着させる可能性が高いことから、産後うつの改善や愛着形成の支援が歯磨きや食生活を含めた育児にも好循環をもたらし、子どものむし歯予防をさらに進めることにつながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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