SJS/TEN患者の血液・皮膚における好中球を観察
山梨大学は7月1日、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)/中毒性表皮壊死症(TEN)の新規発症メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院皮膚科学講座の木下真直助教、小川陽一講師(責任著者)、川村龍吉教授と新潟大学大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野の濱菜摘講師、阿部理一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Translational Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
SJS/TENは、薬剤を使用することによって全身の皮膚や粘膜が壊死してしまい、診断・治療が遅れれば死に至る疾患で、厚生労働省の定める指定難病だ。これまでSJS/TENは、原因となる薬剤に特異的な細胞傷害性T細胞の産生する分子によって皮膚や粘膜が傷害されると考えられてきた。一方、SJS/TEN患者では時に血液中の好中球が減少する。このことから研究グループは、好中球に何らかの異常があるのではないかと考え、SJS/TEN患者の血液・皮膚における好中球を観察した。
SJS/TENに関わりがないと思われていた好中球が発症・増悪に関与
まず、SJS/TEN患者の血液中の好中球を、健康な人や命に関わらないタイプの薬剤アレルギーの患者の好中球と比較。その結果、明らかな形態異常が存在することがわかった。また、この形態異常は好中球のneutrophil extracellular traps(NETs)の形成によるものであることがわかった。
NETsは、好中球が細菌などの侵入に際して、自身の細胞内にあるタンパク質を細胞外に放出し、細菌を捕捉・死滅させるための機構。SJS/TEN患者の皮膚に好中球は存在しないとこれまで信じられてきたが、実際には発症早期から好中球が侵入することがわかった。
具体的には、皮膚に侵入した好中球は、同様に皮膚に侵入した原因薬剤に特異的な細胞傷害性T細胞の産生する分子lipocalin-2の作用によってNETsを形成する。NETsの中に含まれる分子LL-37が、表皮細胞に受容体formyl peptide receptor1(FPR1)の発現を誘導。FPR1を発現する表皮細胞は、単球が産生する分子annexin A1の作用によってネクロプトーシスという細胞死に陥る。ネクロプトーシスに陥った表皮細胞は、さらにLL-37を産生し、周囲の表皮細胞にFPR1発現を誘導。連続的に、表皮細胞死のループが発動することがわかったという。
LL-37は、lipocalin-2と同様に、好中球や上皮細胞が産生するとされる抗菌作用のあるタンパク質だ。今回の研究から、これまでSJS/TENに関わりがないと思われていた好中球が、SJS/TEN発症・増悪に関与することが明らかとなった。
SJS/TEN早期確定診断ができる可能性
SJS/TENの死亡率の高さは、早期診断の難しさが原因の1つだ。今回、SJS/TEN発症に関与する新しい分子(lipocalin-2、LL-37)が発見されたことで、これらを測定し、SJS/TEN診断を早期に確定できるようになる可能性がある。
また、lipocalin-2、LL-37機能を抑制する薬剤が開発できればSJS/TENの新規治療薬となることが期待される、と研究グループは述べている。
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・山梨大学 プレスリリース