国内ではICD適応のエビデンスが乏しく、米国ガイドラインの妥当性検証が求められていた
北海道大学は7月1日、日本の指定難病の一つである、心臓サルコイドーシス患者における突然死予防のための植込み型除細動器(ICD)の適応について検討し、日本人心臓サルコイドーシス患者においても米国ガイドライン同様、多くの患者にICD植込みの適応がある可能性を報告したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院博士課程の竹中秀氏、小林雄太氏、同循環病態内科学教室の永井利幸准教授、安斉俊久教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JACC: Clinical Electrophysiology」誌に掲載されている。
画像はリリースより
サルコイドーシスは、肺、リンパ節、皮膚、目、心臓など多臓器に影響を及ぼす、原因不明の全身性肉芽腫性疾患。心臓サルコイドーシス患者では、心室頻拍・心室細動(VT/VF)などの心室性不整脈による突然死をきたすことがあり、突然死リスクが高い患者はICD植込みの適応となる。
過去の報告では、致死性不整脈の既往がある患者は再発率が高いこと、また、左室駆出率が低下している患者(左室駆出率≤35%)についてもその後の致死性不整脈の発生率が高いことがわかっており、米国の2017年AHA/ACC/HRSガイドライン、2016年日本循環器学会ガイドラインともに、これらの患者をICD植込みのクラスⅠ推奨(有用であるというエビデンスがあるか、あるいは見解が広く一致している)としている。
一方、左室駆出率>35%かつ恒久的ペースメーカー適応、左室駆出率>35%かつ心臓MRIで遅延造影を有する心臓サルコイドーシス患者については、AHA/ACC/HRSガイドラインではICD植込みのクラスⅡa推奨(データ、見解から有用、有効である可能性が高い)としているが、日本においてはエビデンスが極めて乏しいため、国内のガイドラインでは同適応の推奨は明記されておらず、日本人におけるAHA/ACC/HRSガイドラインの妥当性検証が求められていた。
クラスⅡa 推奨患者の一部は、クラスⅠ推奨とほぼ同等の心臓突然死等リスク
今回の研究では、1979年8月~2020年4月の間に北海道大学病院及び国立循環器病研究センターに入院し、心臓サルコイドーシスと診断された188人の患者を対象に検証した。AHA/ACC/HRSガイドラインに基づくICD植込みの推奨に関して、82人が「クラスⅠ」に該当し、97人が「クラスⅡa」に該当していた。主要評価項目は、心臓突然死または致死性心室性不整脈イベントの複合有害事象とした。
観察期間の中央値は5.68年で、期間内に44人(23%)の患者に主要有害事象が発生し、その内訳は心臓突然死が6例、VT/VFが38例だった。生存解析では、ICD植込みのクラスI推奨患者は、クラスIIa推奨患者やICD植込み適応がない患者と比較し、主要有害事象の発生率が有意に高いことがわかった。しかし、左室駆出率>35%かつ恒久的ペースメーカー適応患者と、クラスI推奨患者または左室駆出率≤35%の患者(クラスI推奨)との間では、主要有害事象の発生率に有意な差は認められなかった。さらに、左室駆出率>35%かつ心臓MRIで遅延造影を有する患者と、クラスI推奨患者または左室駆出率≤35%の患者(クラスI推奨)との間でも、主要有害事象の発生率に有意な差は認められなかったという。
以上のことから、クラスⅡa推奨患者の中でも、左室駆出率>35%かつ恒久的ペースメーカー適応となる患者、左室駆出率>35%かつ心臓MRIで遅延造影を有する患者については、クラスⅠ推奨患者とほぼ同等の致死性心室性不整脈および心臓突然死の年間発生率であることが明らかになった。
より多くの心臓サルコイドーシス患者の突然死予防に期待
今回の研究により、日本人心臓サルコイドーシス患者においても、AHA/ACC/HRSガイドラインにおけるICD推奨は妥当である可能性が示唆された。「これにより、日本でのガイドラインへの寄与、さらに、より多くの心臓サルコイドーシス患者が心臓突然死から救われることが期待される」と、研究グループは述べている。
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