小児固形腫瘍診断プロセスにRNAシーケンスを加えることの有用性を評価
名古屋大学は6月29日、小児固形腫瘍のうち特に肉腫が疑われた患者において、包括的遺伝子解析を実施した結果を報告したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科小児科学の高橋義行教授、村松秀城講師、同大医学部附属病院小児がん治療センターの奥野友介病院講師、病理部の下山芳江准教授、名古屋医療センター小児科の市川大輔医員、埼玉県立小児医療センター臨床研究部の中澤温子部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「npj Genomic Medicine」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
小児固形腫瘍には多種多様な疾患が含まれ、適切な治療を提供するためには腫瘍の種類の正確な診断が必要不可欠である。一部の腫瘍においては、特異的な腫瘍マーカーが診断に有用だが、ほとんどの腫瘍では特定のマーカーが存在せず、診断は病理組織評価に強く依存している。しかし、病理検査に用いる検体の十分な採取が困難であったり、組織学的な特徴が類似していたりするため、多くの小児固形腫瘍の診断は非常に困難だ。
近年、それぞれの腫瘍に特徴的な遺伝的変異が多数報告されている。これらの遺伝子変異の検出は、小児固形腫瘍の診断において、非常に有力な方法だ。しかし、従来の手法を用いてこれらの遺伝子変異を検出するには限界があり、新規の遺伝子変異の発見は困難だ。
今回、研究グループはRNAシーケンスを使用した遺伝子解析を小児固形腫瘍の診断プロセスに加えることの有用性について、評価した。
病理診断が「未分化肉腫」にとどまった5例中4例で診断につながる遺伝子変異を検出
研究グループは、47例の小児固形腫瘍患者対象にRNAシーケンスを行い、23例で診断につながる遺伝子変異を検出した。
また、全例で小児固形腫瘍を専門とする複数の病理医による病理組織診断の再評価を実施。42 例は既知のサブタイプの固形腫瘍と診断された一方、5例は、未分化肉腫とされ、すでに知られている腫瘍の組織学的特徴と一致しなかった。この、病理診断が「未分化肉腫」にとどまった5例中4例でRNAシーケンスによって、疾患に特徴的と考えられる遺伝子変異が検出され、明確な診断に至った。
5例で腫瘍の亜型が変更、RNAシーケンスで計9例の病理組織診断が変更に
さらに、すでに知られている腫瘍の組織学的特徴と一致した42例中、5例では検出された遺伝子変異によって腫瘍の亜型が変更された。全体として、RNAシーケンスによって9例の患者において病理組織診断が変更された。
検出された遺伝子変異にはこれまでに報告のないSMARCA4-THOP1融合遺伝子が含まれた。SMARCA4の対立アレルにはスプライスサイト変異も発見され、これらが重なることでSAMARCA4遺伝子の不活化が示され、これが発がんに関与することが示唆された。
横紋筋肉腫症例でMYOG、CHRNG遺伝子が高発現、発現解析が診断に有用な可能性
一部の症例でクラスタリング解析をおこなったところ、横紋筋肉腫の症例が特定のクラスターを形成していることを発見。遺伝子発現解析で、横紋筋肉腫の症例において、MYOG遺伝子とCHRNG遺伝子が高発現していることが示された。これらの遺伝子は横紋筋肉腫に特異的な遺伝子であると報告されており、発現解析が診断に有用である可能性があるという。
小児固形腫瘍の診断において、病理組織診断とRNAシーケンスによる遺伝子解析を組み合わせることにより、より正確な診断が可能と考えられる。また、正確な診断により適切な治療が提供可能となり、治療成績の向上や治療合併症の軽減につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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