客観的データからAIを用いて労働者の心理的苦痛を予測、精神科医の判定と比較
筑波大学は6月25日、労働者の精神的苦痛の判定において、人工知能(AI)を用いたモデルと精神科医との判定精度を比較し、AIモデルは神科医とほぼ同等か、より高い精度で判定できることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系 道喜将太郎助教らの研究グループによるもの。
画像はリリースより
現在、全世界で推定350万人がうつ病に罹患していると考えられている。うつ病により、労働市場における経済的損失が生じることが予測されることから、適切な診断、および予防や早期治療などの適切な対策を講じることが重要だ。そのためには、職場におけるうつ病や心理的苦痛などのメンタルヘルスの問題を、迅速かつ効果的にスクリーニングする必要がある。近年、人工知能(AI)を用いた新しい技術が精神医療にも応用されているが、これまで、AIを大規模なスクリーニングに活用する研究は行われていなかった。
そこで研究グループは今回、気分や感情などの主観的なデータではなく、年齢、性別、就業状況、生活環境、睡眠状況等の客観的データから、AIを用いて労働者の心理的苦痛を予測するとともに、精神科医による判定との比較により、その精度の検証を行った。
重度の心理的苦痛の判定精度は、客観データのAIモデル>精神科医
研究では、労働者7,251人のメンタルヘルスと生活環境に関する調査のデータを用いた。ニューラルネットワークを用いたAIモデルを作成し、教師データとして、うつ病や不安障害などの精神疾患を評価するための指標 「K6」のデータを用いるとともに、7,251人中7,151人のデータを学習させた。また、残りの100人のデータを用いて、AIモデルと6人の精神科医とで、中等度および重度の心理的苦痛の判定精度を比較した。その結果、中等度の心理的苦痛に対しては、AIモデルと精神科医でそれぞれ65.2%、64.4%と、両者の判定精度に差はなかったが、重度の心理的苦痛の場合は、AIモデルの判定精度89.9%に対して精神科医は85.5%であり、AIモデルの方が統計学的に有意に高い判定精度となった。
精神的な状態を調査する場合、不調だと思われたくないために正直な回答が得られないことがある。そのため同研究では、年齢、性別、就業状況、生活環境、睡眠状況などの客観的なデータのみを用いた。したがって、今回開発したAIモデルは、気分などの主観的な報告がなくても労働者の心理的苦痛を予測することが可能だ。精神科医は普段の診療で客観的なデータのみを用いて診断を行うことはないため、メンタルヘルスの状態の判定にAIを活用する意義は大きいと考えられる。
スマホアプリなどで提供できれば、メンタルヘルス問題の改善につながる可能性
今回の研究では質問紙でデータを収集したが、今後、自ら記載する必要のないデータ収集方法を検討するとともに、AIモデルの精度をより高めていく予定だという。研究グループは「これをもとに、スマートフォンのアプリなどの形で多くの労働者に提供できれば、メンタルヘルス問題の改善につながることが期待される」と、述べている。
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