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経口コレラワクチン「ムコライス」、医師主導P1試験で有効性を確認-東大医科研ほか

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2021年06月30日 AM11:35

コレラワクチン開発は、発展途上国のニーズから冷蔵不要で注射不使用が重要

東京大学医科学研究所は6月26日、コレラ毒素(CT)のBサブユニット(CTB)をワクチン抗原として、イネ種子に発現させたコメ型経口ワクチン「」(-CTB、IMSUT-MR1501、以下、ムコライス)の健康成人を対象とした医師主導第1相試験において有効性(免疫原性)と安全性、忍容性を確認したと発表した。この研究は、同研究所 東京大学特任教授部門 粘膜免疫学部門/千葉大学国際粘膜免疫・アレルギー治療学拠点の清野宏特任教授、同研究所 附属国際粘膜ワクチン開発研究センターの幸義和特任研究員、同研究所附属病院アレルギー免疫科の田中廣壽教授(研究当時)、同研究所先端医療開発推進分野の長村文孝教授、同研究所健康医療インテリジェンス分野の井元清哉教授、および大阪市立大学大学院医学研究科 ゲノム免疫学の植松智教授(同研究所 附属国際粘膜ワクチン研究開発センター 自然免疫制御分野 特任教授 兼務)らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Lancet Microbe」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

コレラ菌感染による下痢症は発展途上国ではいまだに大きな問題であり、年間約130~400万人の感染者とそれに起因する2~14万人の死者が出ている。また、毒素原性大腸菌感染による下痢症は、年間約260万人の患者数が報告されている。コレラ菌感染症が蔓延している発展途上国におけるワクチン接種の現場・フィールドでの課題・ニーズを考慮すると、ワクチンの冷蔵保存およびコールドチェーンの必要なく、感染性医療廃棄物となる使い捨て注射器・針も出ないワクチン開発が必要となる。これらの条件をクリアする目的で、粘膜ワクチンの開発が進められてきた。

コレラ毒素Bサブユニットを抗原としてイネに発現させたコメ型経口ワクチン

近年、コレラ菌や毒素原性大腸菌感染に起因する下痢症を予防する目的で、3種類(Shanchol、Euvichol、Dukoral)の不活化経口ワクチンが開発、上市されたが、冷蔵保存が基本だった。また、健康成人に加え、幼児、子供や高齢者にワクチンを投与することを考えると、死菌・不活化ではなく安全性が高いリコンビナント精製ワクチン抗原によるサブユニットタイプの経口ワクチンが理想だった。

そこで、清野宏特任教授らの研究グループは、ワクチンの長期常温保存性、経口安定性、低コスト生産性という観点から、組換え植物の技術を用いてイネ種子にワクチン抗原遺伝子(CTB)を組み込むワクチン発現米「ムコライス」を開発した。ムコライスの下痢症予防ワクチンとしての有効性は、実験動物レベルでは確認されていた。研究グループでは、ムコライスのヒトでの概念実証(Proof of Concept: POC)を目指しGMP対応型完全閉鎖系MucoRice水耕栽培システムの構築を進めてきた。今回、このシステムのもとで栽培されたGMP規格のムコライスを用いて医師主導型第1相試験が、東京大学医科学研究所附属病院で二重盲検、プラセボ対照、ランダム化比較試験として実施された。

健康成人男子が対象、有効性(免疫原性)と安全性を確認

被験者は海外渡航歴と下痢症の関連がない健康成人男子(20~40歳)計60人。無作為に選択し、3つのコホートでの用量漸増試験を行った。それぞれのコホートはムコライス投与群(10人)とプラセボ群(10人)で構成され、ワクチン投与群は、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)に懸濁した1g、3g、または6gのムコライス散剤を、プラセボ群も同量の野生米を、2週間おきに4回経口摂取した。最終経口投与より2か月後をエンドポイントとし、この間にスケジュールに沿った血清と糞便サンプルを採取しました。血清は、ELISA法にてCTB特異的抗体価を測定し、糞便サンプルからは細菌のDNAを抽出して次世代シーケンサーを用いて腸内細菌叢のメタゲノム解析を行った。

同研究所内に設置された第三者専門家から構成される「効果安全性評価委員会」により同試験を通じ重篤な有害事象は認められず、ムコライス経口投与群ではプラセボ群と比較して、投与用量に依存して顕著にCTB特異的な血清IgGとIgA抗体の上昇が認められた。これらのCTB特異的抗体は類似抗原である毒素原性大腸菌由来易熱性毒素(LT)のBサブユニット(LTB)とも交叉反応することが明らかになった。ムコライス経口投与で誘導された抗体には毒素(CT、LT)が粘膜上皮細胞上のGM1レセプターに結合するのを阻害し、それぞれの毒素に対する中和活性があることが試験管レベルで明らかになった。LTは、旅行者下痢症の原因の1つ。つまり、ムコライスは、コレラ毒素による下痢症だけではなく、旅行者下痢症の原因の一つである毒素原性大腸菌由来易熱性毒素による下痢症にも効果のある可能性が示された。

ワクチンに対する免疫応答は、被験者の腸内細菌叢と深く関与

さらに、近年注目されている腸内細菌叢が、ムコライス経口ワクチンの免疫応答と関わっていることもわかってきた。糞便サンプル中細菌DNAのメタゲノム解析を行ったところ、ムコライス応答群では非応答群に比べて、腸内細菌叢の多様性が有意に高く、クラスター分析で完全に両群の分別が可能だった。また応答群には大腸菌や赤痢菌等のDNAが有意に多く、Bacteroidesが有意に少なく検出される特徴があることが明らかになった。

注射器・針と冷蔵保存不要の安価なワクチンを世界的規模で供給できる可能性

研究グループは、今後、第2相、第3相試験へと臨床開発を進めていくことにより、ムコライス経口ワクチンの製品化を実現したいと考えているという。ムコライスは、発展途上国におけるコレラ毒素(CT)による下痢症のみならず毒素原性大腸菌由来易熱性毒素(LT)や志賀毒素が原因の旅行者下痢症の予防に役立つと考えられ、冷蔵保存およびコールドチェーン不要の世界的規模の安価なワクチンを供給できる可能性がある。

対象者を拡大して実施される臨床試験および製品化に向けて研究グループは、LEDなど最新の光源システムを応用し低コストかつ大量安定供給ができるムコライス栽培システムの確立を目指しており、千葉大学大学院園芸学研究科で植物工場に関する研究を行っている後藤英司教授をはじめとする植物系・工学系研究者や、イネ遺伝子改変・発現を専門とした農学系研究者そして空調・設備・機器企業の朝日工業社などとの異分野融合研究を継続的に取り組んでいるとしている。

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