前厚生労働省医務技監の鈴木康裕氏(国際医療福祉大学副学長・教授)は、6月9日に開かれた「第4回ヘルスケアイノベーションフォーラム」で講演した。診療報酬について「アウトカムベースでの支払い方式を取り入れるべきだ」と指摘。「医療行為ごとに費用を積み上げる現行の支払い方式と新たなアウトカムベース方式で、まずは医療機関ごとの選択制としてはどうか」と提案した。
フォーラムは「日本の医療制度の持続可能性とイノベーションが果たす役割:糖尿病治療を例にして」と題し、製薬会社の日本イーライリリーと米国研究製薬工業協会(PhRMA)が共催したもの。
鈴木康裕氏(日本イーライリリー提供)
現行の診療報酬制度では、医療行為ごとに費用を積み上げる「出来高払い制度」と、急性期入院医療を対象とした診断群分類に基づく1日あたりの定額報酬を算定する「包括評価制度(DPC制度)」が用いられている。鈴木氏は「アウトカムベースの支払い方式が確立すれば、医師は治療の結果を保証した上で、運動指導や栄養指導、薬剤治療から治療方法を選ぶことができる」ため、医療の質向上につながるとした。導入する際は、「従来の支払い方式とアウトカムベースの支払い方式の選択制が望ましい。管理栄養士や運動指導士らとチーム医療を行いたい医療機関はアウトカムベースの支払い方式を選ぶと思うので、そうした医療機関が広がっていくよう、政策的に後押しすることが大事だ」と述べた。また、アウトカムベースの支払い方式を取り入れるにあたっては、「糖尿病で血糖がコントロールしやすい人だけを集めて治療の結果を評価すると不公平になってしまう」と懸念を示し、公平な評価のあり方が課題だとした。
これについて、前財務省事務次官の岡本薫明氏(日本生命保険相互会社特別顧問)は「エビデンスに基づくシステムへの移行は重要だ」と共感。データに基づいて地域格差やコストのかかり方を保険者がチェックできる仕組みにすることが大切だと述べた。
検査データの意味を患者が理解し、行動変容につながるシステム構築を
岡本薫明氏(日本イーライリリー提供)
オンラインで参加した日本糖尿病学会理事長の植木浩二郎氏は、健康状態や服薬履歴などを患者本人が把握するための仕組みで国が現在構築をすすめている「パーソナルヘルスレコード」(PHR)と医療機関の診療データを連携させるべきだと述べ、「医療従事者が患者さんの情報を得て、適切にアドバイスすることが重要だ」との考えを示した。また検査データについて、「診察時、医療機関で医師は患者にプリントアウトして渡すが、患者からしたらデータ項目や検査結果の数値が何を意味するのかわからない」と問題視。「オンライン上で患者がどこからでもアクセスでき、検査データの意味も提示できるシステムにすることで、患者の行動変容を促すことが可能だ」とし、これが医療費の削減にもつながるとした。
フォーラムでは、医薬品の研究開発の推進についても議論。鈴木氏は、「従来はビッグファーマが一手に行うことが多かったが、今後はアカデミアやベンチャー企業が開発を進め、一定の段階を超えたところでビッグファーマが買い上げるというモデルが主流になるだろう」との見解を示し、「ブロックバスターになる可能性があるシーズをいかに見極めるかという目利き力が求められる」とした。鈴木氏は、「勘と経験だけでなく、いかにサイエンスとして予測確率を高められるかが重要だ」と指摘。「業界団体とともに政府が推進役を担うことが非常に大事だ」と強調した。