多剤併用中でもスタチン中止で死亡リスクが上昇
長生きするほど病気にかかりやすくなるのは仕方のない面があり、高齢者は多数の薬が処方される「多剤併用」状態になりやすい。多剤併用による副作用や相互作用を避けるために、医師は処方薬を削ろうと努力する。しかし、そのような場合でも、スタチンと呼ばれるコレステロール低下薬は中止すべきではないことを示唆するデータが報告された。ミラノ・ビコッカ大学(イタリア)のFederico Rea氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に6月14日掲載された。
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論文の筆頭著者であるRea氏は、「多剤併用による相互作用を抑えるために処方薬を減らすプロセスについては、大きな議論になっている」と、今回の研究の背景を語る。同氏らは、医療データベースを用いた住民ベースの後ろ向きコホート研究により、スタチンを処方から外した場合の予後への影響を検討した。研究の対象は、2013年10月~2015年1月に、スタチン、降圧薬、抗糖尿病薬、および抗血小板薬が処方されていた65歳以上の地域住民2万9,047人(平均年齢76.5±6.5歳、男性が62.9%)。
スタチン処方が中止された患者と継続されていた患者から、傾向スコアで背景因子を一致させた患者を抽出し、2018年6月まで追跡してアウトカムを比較した。その結果、スタチン中止群で心不全や心血管イベントによる入院、全死亡などの有意なリスク上昇が認められた。具体的には以下のとおり。心不全による入院〔ハザード比(HR)1.24(95%信頼区間1.07~1.43)〕、心血管イベントによる入院〔HR1.14(同1.03~1.26)〕、全死亡〔HR1.15(同1.02~1.30)〕。
Rea氏は、「心血管イベントの一次・二次予防におけるスタチンの有用性は確立されており、またスタチンにはほとんど副作用が見られない」とスタチンの重要性を指摘。その上で今回の研究結果について、「スタチンの中止は心血管イベントと死亡リスクの上昇に関連している。多剤併用時に、例えばせん妄のエピソードがあったからとスタチンを処方から削ることは、賢明な方法ではない可能性がある」と述べている。
本研究には関与していない米国の2人の専門家も、「多剤併用時に医師や患者が薬剤を減らそうとするのはごく一般的なことだが、必ずしも安全なことではない」と指摘している。その1人は米ノースウェル・ヘルス、サンドラ・アトラス・バス・ハート病院のBenjamin Hirsh氏だ。同氏は、「処方薬を減らそうとする際には今回の報告を勘案して、どの薬剤を中止するかを慎重に検討すべきである」と語っている。また「米国心臓協会(AHA)と米国心臓病学会(ACC)は、75歳以前にスタチン処方が開始された患者には、服用に支障がなければ75歳以降も継続することを推奨している」と解説。ただし、75歳以上の患者に対して新規に処方すべきか否かについては結論が出ていないという。
もう1人の専門家である、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のGregg Fonarow氏は、今回の報告の重要性を疑わない。「この研究は、他の多くの薬剤を服用している高齢者であっても、スタチン療法を継続することの実質的なメリットを強く支持している。また、熟考せずに薬剤処方を中止することのリスクも浮き彫りにした研究だ」と同氏は評価。さらに、「処方薬を減らすことを前提として、推奨されている有用な薬剤を削る行為は、患者を心血管イベントリスクに曝すものであり、患者中心の医療とは言えない」とも語っている。同氏は、スタチンの有用性が潜在的なリスクを上回るという、大規模臨床試験のエビデンスがあることを強調している。
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