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薄毛・脱毛が肥満によって促進されるメカニズムを解明-東京医歯大ほか

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2021年06月25日 AM11:45

加齢に伴う薄毛・脱毛と肥満がどう関わるか、仕組みは不明だった

東京医科歯科大学は6月24日、高脂肪食による肥満を引き起こす要因が、毛包幹細胞に働きかけ、脱毛を促進する仕組みを突き止めたと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所・幹細胞医学分野の西村栄美教授(東京大学医科学研究所・老化再生生物学分野教授兼任)と森永浩伸プロジェクト助教らと、米国ミシガン大学、東京理科大学などとの共同研究によるもの。研究成果は、「Nature」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

体を構成する多くの臓器は、加齢に伴いその機能や再生能力が低下し、さまざまな加齢関連疾患を発症するようになる。年齢とともに基礎代謝量が低下し、中年期に太りやすくなることはよく知られているが、肥満がいかに臓器の老化や加齢関連疾患の発症と関わるのか、どの細胞集団が主たる標的となっているのか、いかなるプロセスやメカニズムによるのか全容は解明されていない。加齢に伴う脱毛は、典型的な老化形質として知られ、中年期から進行する。肥満が男性型脱毛症の危険因子となることは疫学調査によって示されているが、肥満がより広く薄毛・脱毛に関わっているのか否か、またその仕組みについては明らかではない。

研究グループは、毛の再生の元となる毛包幹細胞に着目し、加齢による薄毛・脱毛が毛包幹細胞の枯渇によることをこれまでに明らかにしている。本来、毛包幹細胞は毛包のバルジ領域といわれる部位に局在し、自己複製によって幹細胞プールを維持しながら毛を生やす毛母細胞を供給する。若年期においては、毛包幹細胞を周期的に活性化し、毛包の再生と退縮を反復することで毛が周期的に生え変わっているが、年を取ると毛包幹細胞が自己複製せずに表皮細胞に分化し、幹細胞プールが維持されなくなり、毛を再生できなくなる。しかし、これはあくまで遺伝的にも環境的にも同一条件下で見られる毛包の老化に相当し、ヒトにおいてはさまざまな生活習慣や遺伝要因が大きく影響し、脱毛の進行に個体差を生じることは明らかだ。肥満の環境因子や遺伝因子が器官の機能低下を引き起こすメカニズムの解明は、脱毛症に限らずさまざまな加齢関連疾患の理解と制御へとつながると考えられる。

高脂肪食摂取マウスの毛包幹細胞内に脂肪滴が蓄積、幹細胞の枯渇が進行

研究では、生活習慣が毛の周期的再生に及ぼす影響や老化との関連を調べるために、老若両方のマウスに高脂肪食を与え、その違いを検証した。すると、加齢マウスは、1か月間だけ高脂肪食を摂取するだけでも毛が再生しにくくなり、若齢マウスでは、数か月以上の高脂肪食に加え毛周期(ヘアサイクル)を繰り返すことによって毛が薄くなることが明らかになった。

次に、その違いが発生する仕組みを明らかにするため、マイクロアレイやRNA-seq法などを用いた網羅的遺伝子発現解析ならびに毛包幹細胞の遺伝学的細胞系譜解析(運命追跡行った。その結果、4日間という短期の高脂肪食でも毛包幹細胞において酸化ストレスや表皮分化に関わる遺伝子の発現が誘導されたが、若い個体では毛包幹細胞のプールは維持され毛の再生への影響を認めなかった。一方、3か月以上にわたり高脂肪食を摂取したマウスにおいては、毛包幹細胞内に脂肪滴が蓄積し、成長期に毛包幹細胞が分裂する際に表皮または脂腺へと分化することで幹細胞の枯渇が進むことが明らかになった。さらに、毛包の萎縮(ミニチュア化)を引き起こして、毛の再生を担う細胞が供給されなくなるために、脱毛症が進行し、毛が細くなったり生えなくなるなどの脱毛症の諸症状が現れることが明らかになった。

幹細胞内に発生した炎症性サイトカインシグナルが、毛の再生に関わるShh経路を強力に抑制

本来、毛包が成長期に入って幹細胞が分裂する際、(以下、Shh経路)が強く活性化される。しかし今回の研究から、3か月以上にわたり高脂肪食を摂取すると十分な活性化が起こらなくなることが明らかになった。Shhシグナル伝達経路は、本来その活性化によって毛包幹細胞を増やし、毛を再生し続けるが、遺伝要因により肥満したマウスにおいても同様にShh経路の活性化が十分に起こっていないことがわかった。実際、若齢マウスにおいて成長期毛包の毛包幹細胞においてShh経路を抑制すると、同様に幹細胞の異常分化や枯渇、毛包の萎縮による薄毛・脱毛が起きることがわかった。

さらにどのような仕組みでShh経路の活性化が起こらなくなるのか調べた。すると、IL-1βやNF-κBに代表される炎症性サイトカインシグナルが幹細胞内に発生し、再生シグナルであるShh経路を強力に抑制していたことがわかった。最後に、毛包幹細胞におけるShh経路の再活性化によって肥満による薄毛や脱毛が改善するかを調べるため、遺伝学的手法ならびに薬理学的手法を用いて検証したところ、高脂肪食の開始初期からShh経路を活性化し幹細胞を維持した場合にのみ、脱毛症の進行を抑制できることが確認された。

加齢関連疾患の予防や治療に対する新たな戦略に期待

老化メカニズムの解明とその制御は、超高齢化社会において喫緊の課題となっている。特に先進国で深刻な問題となっている肥満は、糖尿病や虚血性心疾患、認知症、がんなど、多くの加齢関連疾患の危険因子であり、「万病の元」となることが知られている。しかし、老化と肥満の関わりは十分に理解されていない。

今回の研究から、遺伝的に均一なマウスを用いて毛を生やす機能を担う小器官である毛包において、肥満の環境要因や遺伝学的要因が幹細胞内でのシグナルへと収束して再生シグナルを抑制し、これが幹細胞の枯渇と器官の機能低下に対して決定的に働くことが明らかになった。加齢や毛周期ごとの周期的再生による幹細胞老化(ステムセルエイジング)とは異なる経路を介しながらも、いずれも幹細胞の枯渇を引き起こし、相乗的に脱毛症を進行させることが明らかになった。またそのプロセスが潜在性に進行することから、予防の重要性は明らかだ。

「今後、幹細胞を中心とした更なるメカニズムの解明によって、脱毛症をはじめとするさまざまな加齢関連疾患の予防や治療に対する新たな戦略へとつながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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