約7万5,000組の夫婦を対象に、父親の育児行動の頻度と母親の心理的苦痛との関連を調査
富山大学は6月23日、乳児を育てる父親の育児行動の頻度が高い集団では心理的苦痛を感じる母親が少ないということを「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」で明らかにしたと発表した。この研究は、同大エコチル調査富山ユニットセンターの笠松春花研究支援員(現・高岡市きずな子ども発達支援センター)および同大学術研究部医学系公衆衛生学講座の土`田暁子助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Psychiatry」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
乳児期の育児は、たくさんの慣れない世話をしなければならず、それまでのライフスタイルが一変する。特に、母親への負担は大きくなりがちで、産後うつをはじめ、メンタルヘルスが不良となる事例が多数報告されている。母親のメンタルヘルス不良は子どもの発達にも影響を及ぼすと言われ、予防対策が必要だ。そのため、母親のメンタルヘルス不良と関連する要因を調べ、対策につなげていけるかを検討することは非常に重要となる。
これまで育児中の夫婦において「父親の育児行動時間が長いと母親のメンタルヘルス不良が減る」という先行研究があったが、日本では大規模集団での検討は行われていなかった。また、父親のどのような育児行動が母親のメンタルヘルスと関連するのかを調べた研究も存在しなかった。そこで研究グループは今回、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加する約7万5,000組の夫婦を対象に、子どもが生後6か月時点の父親の育児行動の頻度と、生後1歳時点の母親の心理的苦痛が関連するか否かを検討した。
父親の育児行動頻度の多い群では、母親が重度の心理的苦痛を有するリスクが低くなる傾向
今回調査した育児行動は、「室内で遊ぶ」「外で遊ぶ」「食事の介助」「おむつ替え」「着替え」「お風呂に入れる」「寝かしつけ」の7つ。父親が取り組む頻度は「全くしない」「たまにする」「時々する」「いつもする」の4段階で母親が評価した。また、母親の心理的苦痛はK6と呼ばれる質問票の回答からストレスの度合いを得点化した。K6の値は合計で0~24点となり、点数が高いほどストレスの度合いが高い状態と判定される。これまでの研究では、5~12点で中等度のストレス、13点以上で重度のストレスがあると判定されており、今回の研究でも同基準を用いてストレス度合いを判定した。そして、父親の育児行動の頻度と母親の心理的苦痛の関連については、母親の年齢や、きょうだいや同居家族の人数、母親の抑うつ傾向など、心理的苦痛に影響を与えると言われる他の要因も調整し、解析を行った。
その結果、父親が育児行動を「全くしない」群と比べ、頻度の多い群では、母親が重度の心理的苦痛を有するリスクおよび、中等度の心理的苦痛であってもリスクが低くなる傾向が見られたという。
父親の育児行動を促進する教育等の介入を行うことで母親の心理的苦痛が低減するかを検証する必要性
これらの結果から、父親が育児行動を積極的に行うと、母親の心理的苦痛が低減する可能性が高いことが示唆された。特に、食事や着替えといった生活の介助だけでなく、室内遊びや外遊びといった行動でも同様の結果が得られた。このことから、今回調べた育児行動に父親が取り組むことで、母親に時間的余裕ができることが心理的ストレス低減につながっているのではないかと推察される。
一方で、今回の研究は観察研究であり、父親の育児行動が母親の心理的苦痛を低減させるように働くかを実際には検証できてはいない。「父親の育児行動を促進する教育等の介入を行うことで母親の心理的苦痛を低減できるかを調べる研究を進め、検証していくことが必要だ」と、研究グループは述べている。
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・富山大学 プレスリリース