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外耳道由来の経皮ガスが、揮発性有機化合物の連続計測に有用と判明-東京医歯大ほか

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2021年06月23日 AM11:45

発汗や汗腺からの激しい放出が、対象成分の安定的なモニタリングを困難にしていた

東京医科歯科大学は6月21日、外耳道由来の経皮ガスが、疾病や代謝に関連する揮発性有機化合物()を安定かつ連続的に計測するのに有用であることを突き止めたと発表した。この研究は、同大生体材料工学研究所センサ医工学分野の三林浩二教授の研究グループと、関西大学化学生命工学部化学・物質工学科の岩﨑泰彦教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

呼気や皮膚ガス()などの生体ガスには、代謝や疾病に基づく血液由来の揮発性有機化合物(VOCs)を含むことから、非侵襲かつ簡便な代謝評価や疾病スクリーニングへの応用が期待されている。特に経皮ガスは、呼気に比べて低負担に連続採取しやすいことから、VOCs濃度の経時変化を詳細にモニタリングするのに有用なサンプルだ。しかし、経皮ガス中のVOCs濃度は呼気に対して3桁ほど低い(体積比率pptからppbレベル)場合もあり、高感度な計測技術が必要。すでにガスクロマトグラフ質量分析計のように、高感度にガス成分を分析できる装置は普及しているが、リアルタイムな連続計測を行うことができない。また、装置自体も大型なため、研究室など特殊な環境での利用が一般的だ。すでに小型でリアルタイム計測が可能なガスセンサも多数開発されているが、既存の多くのセンサは呼気や皮膚ガスに含まれる「湿度の影響」を受け、目的のVOCだけ選択的に計測することは容易ではなかった。

さらに皮膚からは、血管から皮膚を通過するもの以外に、汗腺や皮膚上の常在菌から放出される成分が高濃度で存在し、加えて、身体の部位によって放出動態や濃度、発汗や汗腺からの激しい放出が、対象成分の安定的なモニタリングを困難にしていた。

外耳道由来の経皮ガスのモニタリングシステムを開発、外耳道が生体ガス計測に有用と判明

研究グループは今回、これらの課題を解決するため、汗腺の少ない外耳道に注目し、そこから放出される血中VOCsの評価を試みた。まず、エタノールを対象成分として、濃度の経時変化をリアルタイムにモニタリングできる「外耳道由来ガスモニタリングシステム」を開発。同システムは、外耳道から放出される経皮ガスを捕集する「外耳道ガス採集セル」と、採取した経皮ガス中のエタノールを連続計測する生化学式ガスセンサ「エタノール用バイオスニファ」とを接続して構成されている。

外耳道ガス採集セルは、市販のイヤーマフに送気用の孔(2か所)を設けて作製し、エタノール用バイオスニファは生体触媒である酵素を用いることで、ガス情報を光情報へ変換する。具体的には、アルコール脱水素酵素(ADH)がエタノールを酸化触媒する際、電子の受容体としてはたらく補酵素(酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+))が同時に還元される。その補酵素の還元型NADHは、波長340nmの紫外光を吸収すると波長490nmの蛍光を放出する「自家蛍光特性」を有している。ADH酵素反応から生成されるNADH量はエタノール濃度に相関することから、NADH由来の蛍光を検出することでエタノール濃度を測定する。

実証実験として、外耳道ガス採取セルを耳に装着した被験者に、一定量のアルコール飲料を摂取してもらい、飲酒により変化する外耳道由来の経皮ガス中エタノールを連続的に計測した。その結果、飲酒後のエタノール濃度の上昇と、その後のアルコール代謝によるエタノール濃度の減少が観察された。また、測定中のセンサ出力は非常に安定しており、発汗に基づくスパイク状のノイズが見られた「手のひら」とは対照的だった。これは、外耳道に汗腺がほとんどないことが影響していると考えられるという。

同結果は、同時に計測した呼気中のエタノール濃度の経時変化と比べ、遅延(約13分)はあるものの、同様の濃度変化を示し、両者に高い相関性が認められた。他の研究で呼気と血中エタノール濃度の相関性が報告されていることから、外耳道由来の経皮ガスによる血中エタノールの非侵襲な連続計測も期待されるとしている。

有酸素運動中に脂肪燃焼をモニタリングするヘルスケアやスポーツ技術への応用にも期待

今回の研究により、エタノールなどの血中VOCをモニタリングする際に外耳道が有効な場所である可能性が示された。同結果について、研究グループは以下のように述べている。

「外耳道には汗腺が少なく発汗の影響が小さかったことが、安定的な経皮ガス計測実現の要因だったと考えている。一方、本成果をもとに、例えば呼気で行う飲酒テストのような検査を耳からの経皮ガスで行うようにすれば、飛沫由来の感染症リスクの低下につながる。また、バイオスニファは酵素種を変えることで、他のVOCsの計測も行えることから、例えば脂質代謝により生成されるアセトンを連続計測することで、有酸素運動中に脂肪燃焼をモニタリングするヘルスケアやスポーツ技術への応用も期待される」

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