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原発性胆汁性胆管炎、新規疾患感受性遺伝子と治療薬候補を同定-長崎大ほか

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2021年06月22日 PM12:00

患者1万516例+対照2万772例のGWASデータを用いた国際メタ解析

長崎大学は6月18日、原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis: PBC)患者1万516症例とコントロール2万772例のゲノムワイド関連解析()データを用いて国際メタ解析を実施し、新規疾患感受性遺伝子領域21か所を含む計60か所のPBC疾患感受性遺伝子領域を同定することに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学総合研究科の中村稔教授(長崎医療センター客員研究員)の研究グループ(日本人PBC- consortium)と、英国ケンブリッジ大学George Mells博士の研究グループ(UK-PBC consortium)が中心となり、世界 6 か国の共同研究として行ったもの。研究成果は、「Journal of Hepatology」に掲載されている。

PBCは中年女性に好発する胆汁うっ滞性の肝疾患で、日本の患者総数は5~6万人と推定されている。進行すると食道静脈瘤、腹水、黄疸、脳症などが出現して肝不全となり、肝移植しか治療法がない難病だ。ウルソデオキシコール酸やベザフィブラートの内服により、多くの症例で進行を抑えることが可能となってきたが、現在でも、約10%の患者は治療抵抗性で肝不全に進行している。胆汁酸毒性や自己免疫的機序によって肝臓内の小さな胆管が破壊されることが主な病因と考えられているが、いまだその詳細は明らかになっていない。

PBC患者同胞や一卵性双生児の疫学的研究から、発症には強い遺伝的素因が関与することが以前から示唆されていたが、2005年頃から健常者群と患者群の遺伝子多型を網羅的に比較するGWASが確立・普及し、PBCにおいても個々の遺伝的素因()の探索が可能となった。欧米、日本、中国においても、これまでに各集団で独立してPBC-GWAS研究が行われ、2020年末までに、世界で約40か所の疾患感受性遺伝子領域が同定されていた。

新規疾患感受性遺伝子座を21同定、PBC発症に免疫細胞の分化経路が関与

日本人PBCの患者検体(末梢血)、患者情報は、国立病院機構肝ネット共同研究に参加の32施設、厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班および全国の大学病院35施設から代表研究者の中村稔教授が収集。日本人の遺伝子解析は、東京大学人類遺伝学教室(代表:徳永勝士教授(当時))、(代表:徳永勝士ゲノム医科学プロジェクト長)、京都大学(代表:長崎正朗学際融合教育研究推進センター・ゲノム医学センター特定教授)が、それぞれ担当した。国際メタ解析は、英国ニューキャッスル大学(代表:Heather Cordell教授)、ケンブリッジ大学(代表:George Mells博士)と中村教授の研究グループが中心となり、世界6か国の共同研究として実施した。

新たに同定された21か所の疾患感受性遺伝子座の中には、FCRL3、INAVA、PRDM1、IRF7、CCR6などの免疫反応に重要な役割をもつ遺伝子が多数含まれており、PBCの発症にさまざまな免疫担当細胞(樹状細胞、マクロファージ、T細胞、B細胞)の活性・分化経路が関与していることがあらためて示された。また、疾患感受性遺伝子領域には異なる集団(人種)間において一致率約70%とある程度の相違はあるものの、PBC発症に関わる遺伝子構造や疾患発症経路は異なる集団間で共通しており、TLR-TNF signaling、JAK-STAT signaling細胞の Tfh、Th1、Th17、Treg細胞への分化経路やB細胞の形質細胞への分化経路がPBCの発症に重要であることが明らかとなった。

治療薬候補として免疫療法薬、、フィブラートなどを同定

また、これらのGWAS情報を用いたin silico drug efficacy screeningにより、既存の薬物の中からPBC治療への再利用が期待される薬物候補として、免疫療法薬(Ustekinumab、Abatacept、Denosumab)、レチノイド(Acitretin)、(bezafibrate)などが同定された。一方、PBC治療の第一選択薬として広く使用されているウルソデオキシコール酸は、このスクリーニング方法では薬物候補としては選択されず、GWASの結果から推定される上記疾患発症経路とは異なる経路上の標的に作用している可能性が示唆された。

疾患感受性遺伝子を介した疾患発症の分子機構の解明と新規治療薬開発に期待

欧米人とアジア人を含めたPBC-GWASの国際メタ解析の報告は世界初であり、同定された疾患感受性遺伝子領域も60遺伝子領域と世界最大となる。また、大規模なGWAS情報が疾患発症経路の同定に有用であるだけでなく、治療薬候補の同定にも有用であることがPBCにおいて初めて示された。

「今後は、本研究で得られたデータを用いて、疾患感受性遺伝子を介した疾患発症の分子機構の解明が進むとともに、ウルソデオキシコール酸やベザフィブラート治療に抵抗性で肝硬変、肝不全に進行する症例に対する新しい治療薬が開発されることが期待される」と、研究グループは述べている。

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