免疫チェックポイント阻害薬は効果に個人差、治療効果予測指標が必要
量子科学技術研究開発機構(量研)は6月21日、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果をPET画像診断で予測する技術を開発したと発表した。この研究は、量研量子生命・医学部門量子医科学研究所先進核医学基盤研究部の謝琳主任研究員、胡寛研究員、張明栄部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal for ImmunoTherapy of Cancer」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
近年注目されているオプジーボに代表される免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞に対する免疫細胞の攻撃にブレーキがかかるのを防ぎ、免疫によるがん細胞の排除効果を維持する。しかし、その効果には個人差があることがわかってきており、治療効果の予測に利用できる指標や診断法の開発が強く求められている。
がん免疫逃避機構への関連が注目されるIDO1に着目
治療効果を予測する指標の1つが、免疫チェックポイント阻害薬が作用するタンパク質が腫瘍に発現しているかどうかだ。例えば、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体)の効果予測では、検査や手術で採取した腫瘍組織を免疫染色してPD-L1タンパク質が発現しているかを調べる。しかし、採取した検体の状態によっては目的のタンパク質の発現を正確に見られない場合がある。また、PD-L1は抗がん剤などの使用によってその発現が変化するという報告がある。このように、腫瘍は治療によって形や大きさだけでなく、免疫チェックポイント阻害薬に対する応答が変化することがある。
免疫は全身的な応答であることから、腫瘍以外の部分についても免疫チェックポイント阻害薬への免疫応答を調べることが重要と考えられる。そこで研究グループは、免疫調節因子であるインドールアミン酸素添加酵素(Indoleamine 2,3-dioxygenase 1:IDO1)に着目した。IDO1はT細胞の機能を抑制して、過剰な免疫反応を防ぐ働きを担う。腫瘍ではその発現が増加しており、がん免疫逃避機構への関連が注目される。
IDO1を可視化するPET薬剤を開発、悪性黒色腫モデルマウスで検証
今回の研究では、免疫療法に対する全身の免疫応答を調べ、その応答が治療効果予測に利用できる指標となるかを調べるために、IDO1に結合するPET薬剤(11C-L-1MTrp)を開発し、免疫療法を行った悪性黒色腫モデルマウスでIDO1の発現を陽電子断層撮像法(PET)で解析した。
研究グループはまず、悪性黒色腫細胞(B16F10)を移植したマウスに、臨床試験で汎用されている治療と同様に、抗がん剤のシクロホスファミド(Cyclophosphamide、CPA)とIDO1阻害薬L-1MTrpを組み合わせる複合免疫治療を実施。投与は、細胞移植から、7、10、13、16日後に行った。また、未治療と治療終了後(細胞移植23日後)にPET薬剤(11C-L-1MTrp)を投与してマウスの全身をPETで撮像した。PET薬剤は治療が終わった後で投与しており、投与量も治療に必要な濃度の2万分の1と低濃度であるため、PET薬剤による治療への影響は無いと考えられるという。
治療効果が高い群で腸間膜リンパ節にPET薬剤が高集積
PET撮像の結果、未治療群に比べ、腫瘍の増殖が著しく抑制された治療群では、腸間膜リンパ節に11C-L-1MTrpが高集積していることを発見。IDO1は腫瘍では、がん細胞と免疫細胞の両方で発現が高いとされているが、この結果は、腫瘍よりも腸間膜リンパ節においてIDO1が治療によって高く誘導されていることを示していた。
免疫は全身反応なので、IDO1阻害薬の投与により、全身の免疫が異物(腫瘍においてはがん細胞)を排除するようになると考えられるが、腸間膜リンパ節が属する腸管免疫系は脾臓や末梢リンパ節を中心とする全身免疫系と違い、独自の免疫系を構築している。この腸管免疫系は腸間膜リンパ節などを形成し、病原性細菌など有害抗原に免疫応答を発動し、排除する一方、食物性タンパク質、強制細菌など無害抗原には反応しないように制御している。この本来の働きが妨げられないよう、複合免疫治療後の腸間膜リンパ節ではIDO1が誘導されて、免疫機能が調整されていると考えられた。
腸間膜リンパ節への集積量と治療効果の間に相関
そこで研究グループは、11C-L-1MTrpを用いたPET画像診断が、がん免疫治療効果予測法として汎用できるか確認するため、腸間膜リンパ節における11C-L-1MTrp集積量と、IDO1阻害薬以外の免疫チェックポイント阻害剤による複合免疫治療効果との間に関係があるかを調べた。マウスにPD-1抗体と抗CTLA4抗体及びCPAを組み合わせる複合免疫治療を行い、32日目まで腫瘍の増殖を調べ、また、移植後13日目と25日目に11C-L-1MTrpを投与してPETで撮影した。
11C-L-1MTrpの集積を解析した結果、13日目、25日目ともに腫瘍体積が縮小したグループの方が11C-L-1MTrpが腸間膜リンパ節に高集積していると判明。両者の間には負の相関があり、腫瘍の増殖が抑えられサイズの変化率が小さい(治療効果が高い)ほど、11C-L-1MTrpの集積量が多いことが明らかとなった。なお、腫瘍における11C-L-1MTrpの集積には両群の間にほとんど差はなかった。
がん免疫療法の治療効果予測や個別化医療の実現に期待
今回の研究により、腸間膜リンパ節における11C-L-1MTrp集積量が、免疫療法の治療効果を予測する指標になり得ることが示された。この技術は、オプジーボなどによるがん免疫療法の治療効果予測や、個別化医療の実現への応用が期待される。研究グループは、その実現を目指し、今後、この技術を臨床試験に展開して治療効果を予測する技術としての有用性の評価に取り組むとともに、これまで調べることができなかった生体におけるIDO1の発現を解析することにより、IDO1によるがん免疫抑制機構に迫り、新たながん治療法の創出につなげていきたいと考えている、と述べている。
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・量子科学技術研究開発機構 プレスリリース