BCGがCOVID-19発症予防や軽症化に関わる可能性は?
帝京大学は6月19日、世界各国の過去における結核のまん延度と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との関連を調べ、結核の高度まん延国ほどCOVID-19死亡率および発症率が低いことを発見したと発表した。この研究は、同大帝京大学医学部地域医療学の井上和男教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科の鹿嶋小緒里准教授の研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。
画像はリリースより
COVID-19の世界的流行(パンデミック)において、死亡率・発症率の著しい国・地域差があり、一般的にアジアより欧米でCOVID-19の影響は甚大だ。死亡率は、感染拡大初期の2020年4月上旬時点において、最大4桁の差であった。社会経済、文化あるいは衛生的状況などではこの差は説明できず、生物医学的要因の存在が推測されている。
要因の1つの候補として、結核の予防に使われるBCGが、自然免疫機構を強化する「訓練免疫」によってCOVID-19発症予防や軽症化に関わる可能性が提唱されているが、この仮説を支持しない研究もあり、未解明だ。また、BCGの予防効果は、結核に対して15年程度と言われており、乳幼児期のBCG接種が、COVID-19へのリスクが大きい高齢者で有効かは疑問が残る。
一方、結核は、いまだ人類最大の感染症であり、日本では1950年まで死因の第1位だった。よって、現在の高齢者の多くが若年時に結核に感染し(80歳代では70%)、細胞内に寄生しつづける「潜行性持続感染」状態にある。
90か国100万人当たりのCOVID-19死亡率、発症率、BCG接種状況を調査
一時的なワクチン接種による「人工能動免疫」と比べて、結核のように持続感染する病原体による「自然能動免疫」において免疫が強いことが予想される。そのため、研究グループは、「結核の潜行性持続感染が訓練免疫を強化する」「かつて結核のまん延した地域(アジア)ではCOVID-19死亡率・発症率が少なく、結核の非まん延地域(欧米)では大きい」「BCGは結核予防のためまん延地域で普及しているため、BCG接種とCOVID-19流行には見かけ上の負の相関(疑似相関)がある」という仮説を立てた。
今回の分析対象は、2020年4月5日時点でCOVID-19症例数200以上の98か国から、結核の発症率の最古の記録として、データベースに記載されている1990年の結核の発症率(10万人あたり)が報告されている90か国とした。そして、90か国の100万人当たりのCOVID-19死亡率、発症率、BCGの接種状況を調査した。
COVID-19死亡率・発症率の著しい差は、BCGよりも結核のまん延度合いの差に起因する可能性
調査の結果、COVID-19死亡率・発症率のいずれにおいても、1990年の結核の発症率とは負の相関が、BCGの接種状況とも相まって見られた。結核の多かった国々はアジアに多く、BCGが現在も行われており、COVID-19死亡率も発症率も低い状態だった。結核の少なかった国々は主に欧米であり、BCGはこれまで未実施または中断されており、かつ未実施国と中断国でのCOVID-19死亡率・発症率の差は不明瞭だという。そして、これらの国で、COVID-19死亡率・発症率は高い値を示した。
また、この負の関係は、国別の高齢化率、有病率そして裕福度(一人当たりの国民総生産)を考慮に入れた分析でも同じだった。さらに、文献情報から取得した28か国の1950年の結核の死亡率(10万人あたり)でも同じ負の相関が見られたという。変化するCOVID-19流行によってこの結果が変わらないか検証した結果、2020年8月5日(4か月後)、2021年4月5日(1年後)でも結果は同じだった。調査の結果、上記の仮説を支持する結果となったとしている。
今回の研究により、世界各国におけるCOVID-19死亡率・発症率の著しい差は、BCGよりも結核の過去におけるまん延度合いの差に起因する可能性が高いことが明らかになった。
結核菌による訓練免疫説のもとでは高齢者などへのBCG接種は「推奨されない」
BCGの潜行性持続感染する結核菌による「訓練免疫」が強力な効果があることは容易に予想でき、加えて、2009年に発生した新型インフルエンザのパンデミックでも日本の死亡率は欧米に比べて低い結果だった。この理由も同じく不明とされているが、結核菌による訓練免疫がその理由の可能性があるという。
また、BCGが注目されたことで、高齢者など成人にBCG接種をすることが有効という仮説があるが、同研究で支持される「結核菌による訓練免疫」説では否定され、この目的でのBCG接種は推奨されないということになる。
研究グループは、ワクチン開発も重要だとした上で、それ以前に、ヒトの体に備わる訓練免疫を含めた自然免疫の解明が基礎医学および公衆衛生医学の両面から求められる、としている。そのために、同研究のような国・地域差の要因は検証されていくことが望まれており、より正確なリスク評価によって、その国・地域にとって適切な対策につながることが期待される、と述べている。
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・帝京大学 プレスリリース