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人工甘味料の摂取で起こる下痢を、腸内細菌が抑制していることをマウスで確認-慶大

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2021年06月21日 AM11:45

ソルビトールなど「」による下痢の起こりやすさを規定する因子は?

慶應義塾大学は6月18日、腸内細菌が人工甘味料の摂取によって引き起こされる下痢を抑制することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大薬学研究科の服部航也修士課程生(研究当時)、同薬学部の秋山雅博特任講師、金倫基教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nutrients」電子版に掲載されている。


画像はリリースより

ソルビトールをはじめとする糖アルコールは、低カロリーの人工甘味料としてあめ、ガム、飲料などに幅広く利用されている。その一方で、糖アルコールの過剰摂取によって軟便や、体重減少を伴うような重度の下痢が引き起こされることも知られている。その要因として、難吸収性の糖アルコールが、腸管内の浸透圧を増加させ、水の再吸収を妨げることで下痢を発症すると考えられている。この糖アルコールによる下痢の起こりやすさには個人差があるが、その理由は明らかにされていない。今回研究グループは、この感受性を規定する因子の一つが腸内細菌ではないかという仮説のもと、研究を開始した。

下痢を起こさないマウスの腸内にEnterobacteriales目細菌群、Clostridiales目細菌群などに属する腸内細菌が存在

研究グループはまず、腸内細菌が糖アルコール誘発性の下痢に関与しているか否かを明らかにするために、通常マウス、および体内に細菌を持たない無菌マウスに糖アルコールであるソルビトールを投与し、下痢症状を観察した。その結果、通常マウスはソルビトール投与しても下痢を発症しなかったが、無菌マウスは体重減少を伴う重度の下痢症状を呈した。

次に、特定の腸内細菌が糖アルコール誘発性の下痢の抑制に関わっているか否かを検証するため、異なる抗菌スペクトラムを持つ抗生物質を投与し、腸内細菌叢を撹乱した状態でソルビトールを投与した。その結果、アンピシリンまたはストレプトマイシン投与マウスでは重度の下痢が引き起こされたのに対し、バンコマイシン・エリスロマイシン投与マウスでは下痢は起こらなかった。以上の結果から、特定の腸内細菌が糖アルコールによる下痢の抑制に関わっている可能性が示唆された。

続けて、糖アルコール誘発性の下痢を抑制する腸内細菌を探索するために、抗生剤を投与したマウスの腸内細菌叢の解析を行った。その結果、下痢を発症しなかったマウス(バンコマイシン、エリスロマイシン群)の腸内では、Enterobacteriales目細菌群またはClostidiales目細菌群が優勢であることが判明。さらに、ソルビトールの投与により、濃度依存的にEnterobacteriales目細菌群の割合が増加することも明らかとなった。以上のことから、これらの細菌群が糖アルコール誘発性の下痢を抑制している可能性が考えられた。

ソルビトールを利用できる大腸菌が糖アルコール誘発性の下痢を抑制

さらに研究グループは、ソルビトール投与により増加したEnterobacteriales目細菌群に着目し、糖アルコール誘発性の下痢を抑制する腸内細菌の探索を行った。Enterobacteriales目細菌群の中にも、ソルビトールを栄養源として利用できる細菌と利用できない細菌がいることがわかったため、ソルビトールを利用できないプロテウス菌(Proteus mirabilis)と、利用できる大腸菌(E. coli)をそれぞれ無菌マウスに定着させ、ソルビトール投与後の下痢症状を観察した。その結果、無菌マウスやプロテウス菌が定着したマウスはソルビトール摂取後に下痢を発症したのに対し、大腸菌が定着したマウスは下痢にならなかった。以上のことから、Enterobacteriales目細菌群の中でソルビトールを利用できる大腸菌が糖アルコール誘発性の下痢を抑えることが明らかになった。

最後に、大腸菌によるソルビトールの消費が糖アルコール誘発性の下痢の抑制に関わっているか否かを検証した。大腸菌のソルビトールの代謝に関わる遺伝子であるsrlA、srlB、srlE、srlD遺伝子の内、srlA、srlB、srlE遺伝子変異株では、野生株と同様に、ソルビトールを単一の炭素源とした場合でも増殖し、培地中のソルビトールを減少させた。ところが、srlD遺伝子を欠損した大腸菌はソルビトールを炭素源として利用することができなくなり、培地中のソルビトールも減っていなかった。また、無菌マウスに大腸菌の野生株を定着させると、糖アルコール誘発性の下痢が抑制されたが、srlD遺伝子変異株を無菌マウスに定着させても下痢を予防することはできなかった。以上のことから、大腸菌は糖アルコールを栄養源として利用・消費することにより、下痢の発症を抑えていることが示唆された。

人工甘味料による腸内環境異常を是正する新たなプロバイオティクスの開発に期待

今回の研究成果により、糖アルコール誘発性の下痢の抑制に、腸内細菌が関与していることが明らかになった。さらに、腸内細菌の中で、糖アルコールを利用・消費できる大腸菌が下痢を予防できることも判明した。

大腸菌はヒトの大腸に存在する細菌の中ではそれほど多くない。また、大腸菌の中には感染症を引き起こすものや、炎症性疾患と関連するものなどがいるため「悪玉菌」というイメージが強い。しかし、大腸菌の多くは非病原性で、食物の消化を助けるなど、有害な微生物から宿主を守る働きを担っている。同研究結果より、大腸菌は人工甘味料の腸への有害な作用からもヒトを保護していることが示唆された。

人工甘味料の多くは難消化性・難吸収性であるため、大腸にまで到達し、下痢だけでなく、腸内環境に負の影響を及ぼすことも指摘されている。人工甘味料の消費が増えている中、人工甘味料による腸内環境異常を是正する新たなプロバイオティクスの開発が今後期待される。

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