流行拡大が懸念されるブラジル変異株、増殖力や病原性は?
東京大学医科学研究所は6月18日、ブラジルで出現した新型コロナウイルス変異株の特性を明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループが、東京大学、米国ウイスコンシン大学、国立感染症研究所、米国ミシガン大学、国立国際医療研究センターとの共同研究として行ったもの。今回の研究成果は、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業の一環として得られたもので、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
現在も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の爆発的な流行が世界的規模で続いている。2021年6月17日現在、累計感染者数は世界全体で1億7000万人を超え、そのうちおよそ380万人が亡くなっている。2021年に入り、スパイクタンパク質に変異を有するさまざまな新型コロナウイルス(英国、南アフリカ共和国、ブラジル、インド由来の変異株など)が国内において検出され、これら変異株の流行が急速に拡大している。それらの中でブラジル変異株は、ウイルスの感染力や病原性を高める可能性のある変異(N501Y)を有していること、さらに現行ワクチンの効果を低下させる可能性のある変異(E484K)を有していることから、同変異株による流行拡大が懸念されている。しかし、この変異株の増殖力や病原性など、その基本特性については明らかになっていなかった。
感染モデルハムスター実験で、増殖力と病原性は従来株と同等と判明
今回、研究グループは、まずCOVID-19感染モデル動物のハムスターを用いて、ブラジルからの帰国者から分離された変異株の増殖力と病原性を従来の流行株と比較した。ブラジル変異株を感染させたハムスターでは、ウイルス感染により体重増加の抑制が観察されたが、同変異株と従来株との間で体重変化に違いは認められなかった。また、ブラジル変異株の鼻や肺などの呼吸器における増殖力は、従来株とほぼ同じであることがわかった。このように哺乳動物におけるブラジル変異株の増殖力と病原性は、従来株と同等であることが判明した。
回復者/ワクチン接種者の中和抗体価、ブラジル変異株も従来株もほぼ同じ
次に、COVID-19の回復者あるいはCOVID-19 mRNAワクチン(米ファイザー社製ワクチン)の接種者から採取された血清・血漿を用いて、ブラジル変異株と従来株に対する中和抗体価を測定。その結果、回復者あるいはワクチン接種者血清・血漿のブラジル変異株に対する中和抗体価は、従来株に対するそれとほぼ同じであることが明らかになった。
従来株感染から回復したハムスターは、ブラジル変異株再感染に一定の抵抗性
研究グループはさらに、従来株の感染から回復したハムスターが、その後のブラジル変異株による再感染に対して抵抗性を示すのかどうかを調べた。具体的には、初感染から回復したハムスターに変異株を再感染させた後、呼吸器におけるウイルス量を測定した。結果、変異株を再感染させたハムスターの鼻甲介からは少量のウイルスが検出されたが、肺からはウイルスは全く検出されなかった。加えて、ブラジル変異株を感染させたハムスターにCOVID-19回復者から採取した血漿を投与したところ、肺におけるウイルス増殖が抑制されることもわかった。
ブラジル変異株のリスクを評価する上で重要な情報に
今回の研究結果は、従来株の感染から回復した人がブラジル変異株に再び感染する可能性があることを示唆するとともに、ウイルス感染によって中和抗体が体内で産生されていれば、同変異株が体内に入ってきても重症化しないことを示しているもの。また、現行のCOVID-19 mRNAワクチンは、ブラジル変異株に対しても有効であることも示された。
今回、新型コロナウイルス変異株の特性の一端が明らかになった。研究グループは今回の成果について、「変異株のリスク評価など行政機関が今後のCOVID-19対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となる」と、述べている。
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・東京大学医科学研究所 プレスリリース