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病院外で新型コロナの初期診断を可能にする「エックス線診療車」を開発-産総研ほか

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2021年06月18日 AM11:00

屋外陰圧テントでのエックス線撮影における課題を克服

(産総研)は6月17日、遠隔診療機能を装備し感染防護対策されたエックス線診療車(ICXCU:Infection-Controlled X-ray Care Unit)を開発したと発表した。この研究は、同研究所健康医工学研究部門人工臓器研究グループの三澤雅樹主任研究員、医療機器研究グループの鷲尾利克主任研究員、新田尚隆主任研究員、省エネルギー研究部門熱流体システムグループの高田尚樹上級主任研究員、インダストリアルCPS研究センターフィールドロボティクス研究チームの大山英明主任研究員、神村明哉研究チーム長らと、筑波メディカルセンター脳神経内科の廣木昌彦専門部長、、東京都立大学、、株式会社フォーカスシステムズ、株式会社ピュアロンジャパンと共同で行われたもの。研究成果は、第40回日本医用画像工学会大会で発表される予定である。


画像はリリースより

新型コロナウイルス感染の拡大が続くなか、医療従事者の二次感染防止と保健所負担軽減は急務である。新規感染者の増加に伴い、保健所や医療に携わる方々にはストレスが蓄積し、救急医療体制の混乱も招いている。国内感染者数は77万人を超え(2021年6月15日現在)、重症者も増えている。また、クラスター発生施設の診断や軽症者の健康管理では自治体が指揮をとり、感染症指定病院と協力して診療に当たっているが、医師や看護師の感染は医療提供体制に大きな影響を及ぼす。現在、特に大きな負荷がかかっている保健所の業務支援や地域医療の負担軽減策が望まれている。

胸部エックス線撮影は、多数の肺炎を疑う患者に対するスクリーニングや患者の経過観察に極めて有効である。一方、エックス線CT撮影は、より精密ではあるが、被ばく線量が高く、検査に時間を要するため、胸部エックス線撮影に基づき、医師が必要と判断した場合に実施される。茨城県では、新型コロナウイルス感染症陽性患者のメディカルチェックにおいて、胸部エックス線撮影が強く推奨されている。

陽性患者が触れた医療機器の消毒には手間がかかり、病院内で撮影すると二次感染のリスクが高まる。現状では、胸部エックス線撮影装置を病院外に持ち出し、屋外の陰圧テント内で撮影を行っている。しかし、据え置き型のテントは、外気温や天候の影響を受けやすく、悪天候や照明が不十分な夜間時には診察できないという問題がある。また、一旦設置した陰圧テントおよび使用する医療機器は、移動や持ち出しが容易ではないため、クラスター発生施設に直ちに設置できないという問題もある。

産総研と筑波メディカルセンターは、高齢化に伴って寝たきりとなる要因の第1位に挙げられる脳卒中対策として、地方自治体や日本脳卒中学会に頭部エックス線CTドクターカーの導入を提案するとともに、頭部エックス線CTドクターカーの車両設計を検討してきた。今回、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、頭部エックス線CTから肺炎スクリーニングに必要な胸部エックス線撮影装置に替える案を考え、その運用について、保健所や茨城県と協議を続けながらエックス線診療車開発を進めた。

換気/二次感染防止の機能、オンライン診療システムを搭載

病院外で新型コロナウイルス感染症陽性患者のメディカルチェックを行うため、オンライン診療設備と感染防護診療室を備えたエックス線診療車(ICXCU)を開発した。車内を区画分離し、前方から外気を取り込み、清潔エリアから診察エリアへの一方向の気流を発生させ、後部診察室の天井から排気する換気システムを構築した。加えて、低濃度オゾン発生器やUV照射による空気の清浄化、および診察室の抗菌フィルムコーティングにより二次感染を防止する仕組みとした。さらに、車内気流の数値シミュレーションを行い、設計どおりの気流が発生し、所定の換気状態が実現できていることを、気流計測および流れの可視化で検証した。

車内には、オンライン診療を監視するオペレーターと、エックス線撮影を行う診療放射線技師が待機している。患者は後部入り口から搭乗し、血圧測定後、中央部のエックス線撮影室で胸部エックス線撮影を行い、車両後部の診察エリアで診断結果を聞く。車内前方の清潔エリアには、インターネットに接続された医療情報伝送用のオンライン診療システムがあり、医療関係者間コミュニケーションアプリを介して、病院内の診察室にいる専門医に胸部エックス線画像を転送する。オンライン診察画像やエックス線画像を遅延なく送受信できるシステムを構築したことで、予診から問診、診断報告までの全体情報を医療チームが共有できるため、感染リスク低減とともに、迅速かつミスの少ない診断が期待される。

エックス線診療車には、胸部エックス線撮影装置のほか、自動血圧計、エコー装置、バイタルモニター、心電計、電子聴診器等が搭載されているため、必要に応じて、基礎疾患をもつ患者への初期介入も可能だ。さらに、現行の陰圧テントでのメディカルチェックに比べて、会話が外に漏れないなどプライバシーを確保でき、空調管理され、悪天候や照明が不十分な夜間の制約を受けない点も特徴である。

クラスター施設、宿泊療養施設での診療利用が可能に

もう一つの使い方として、移動診療車としての特徴を生かし、保健所等の要請に応じ、クラスター発生施設や宿泊療養施設へ赴き、メディカルチェックを現地で行い、最適療養先の決定にも利用できる。自治体内運用体制構築のため、茨城県の新型コロナウイルス対策担当課、地域保健所、市医師会、健診協会等と意見交換し、今後に向けて、地域全体での活用方法を検討している。さらには、新型コロナウイルス感染症対策のみならず、災害時の救護拠点支援としての利用なども期待できる。

茨城県で実証試験、医療過疎地域で遠隔診療デモなどを予定

開発したエックス線診療車による実証試験は、令和3年度茨城県DXイノベーション推進プロジェクト事業に採択されたため、茨城県の支援を受けて、今年度中に筑波メディカルセンター病院に配備、陰圧テントと併用して、メディカルチェックを行われる予定である。比較的軽症の患者はエックス線診療車に搭乗し、搭乗できない患者は従来の陰圧テントでメディカルチェックを受ける。

年度後半には、自治体や保健所の要請に基づき、クラスター発生施設や宿泊療養施設に出向いてのスクリーニングや経過観察を想定した運用デモ、医療過疎地域での遠隔診療デモ、地震や水害などで医療機関が被害を受けた場合の一時的な救護施設支援としての機能検証を予定している。

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