医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > ニューロンとグリア細胞が引き起こす脳の血流増加メカニズムの分離に成功-電通大ほか

ニューロンとグリア細胞が引き起こす脳の血流増加メカニズムの分離に成功-電通大ほか

読了時間:約 3分28秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年06月17日 AM11:15

ニューロンとグリア細胞の活動を切り分けて調べることは不可能だった

電気通信大学は6月15日、脳が活動した際に見られる脳の血流増加について、その要因となるニューロンとグリア細胞が、それぞれ独立に作用する調節メカニズムがあることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院情報理工学研究科の正本和人教授(・医工学研究センター・センター長)ら、慶應義塾大学医学部、東北大学大学院生命科学研究科、放射線医学総合研究所(現・量子医科学研究所)の研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism」オンライン速報版に掲載されている。


画像はリリースより

脳が活動すると活動部位への血液の供給量が増える(機能的充血)。そのため、脳への血液の供給量を計測することで、脳のどの部分が活動したのかを知ることができる。現在、機能的MRI(fMRI)や機能的近赤外分光法(fNIRS)を用いて脳の活動部位を調べる研究が盛んに行われており、これらの脳の機能計測では、脳の神経活動を観測していると仮定されている。

脳は主に、情報伝達を制御するニューロンと、脳の状態を制御するグリア細胞で構成されている。グリア細胞には脳の血液の流れを調節する機能があり、ニューロンが活動していなくてもグリア細胞が活動することで脳の血液の流れが変わることがわかっていることから、脳の機能計測ではニューロンの活動だけではなく、グリア細胞の活動も観測されている可能性が示されている。しかし、ニューロンとグリア細胞の活動は常に密接に連携しているため、どちらかの活動を切り分けて調べる手法がなく、2つの細胞の活動を見分けることができなかった。

遺伝子工学の技術でニューロンとグリア細胞による脳の血流調節機能を調査、脳血流の変化は薬理実験で確認

そこで研究グループは、特定の細胞のみに光に対して反応するタンパク質を導入する、オプトジェネティクスと呼ばれる遺伝子工学の技術を使い、ニューロンとグリア細胞による脳の血液の流れの調節機能を調べた。

まず、ニューロンまたはグリア細胞のみに光感受性のチャネルタンパク質を発現させた遺伝子改変マウスの頭蓋上から、チャネルを開くための青色の刺激LEDを照射。続けて、チャネルを閉じるための橙色のLEDを照射し、刺激部位での脳の血液の流れの変化を計測した。血液の流れは、レーザースペックル組織血流計と呼ばれる近赤外のレーザー光を用いた血流のマッピング技術を用いて評価した。すると、脳表の一部に光を照射した際の脳の血液の増加に関して、その広がり方に両マウスで違いがみられた。そこで、血管の働きに注目し、二光子レーザー顕微鏡と呼ばれる近赤外の超短パルスレーザー光を用いた特殊な蛍光顕微鏡を用いて脳血管を立体的に蛍光造影し、それぞれの細胞への光刺激に対する脳血管の構造変化を詳細に観察した。

最後に、これまでに判明している「血管の拡張メカニズム」に関する薬理実験を実施。血管拡張に関わるシグナル経路を阻害する薬を脳表に滴下し、光刺激を行った際の脳血流の変化を詳しく調べた。

ニューロンとグリア細胞では、刺激部位からの脳血流の広がり方に違いがあると判明

その結果、ニューロンもしくはグリア細胞をそれぞれ同じように光で刺激すると、刺激部位からの脳血流の広がり方に違いがあることが明らかになった。オプトジェネティクスによってグリア細胞()を刺激すると脳の血液の流れが増加することは、先行研究で報告していたが、今回は同様の手法を用いて、ニューロンの光刺激によっても脳の血液の流れが一過性に増加して元に戻ることを確認した。さらに、ニューロンとグリア細胞による活動で引き起こされる血管の拡張に関して、脳の表面を走行する動脈の働きに違いがみられたという。

アストロサイトによって駆動される脳血流の増加メカニズムには、細胞間のギャップ結合が関与し、血管には主にカリウムイオンの放出によって血管細胞の過分極による血管拡張の伝播を介した調節メカニズムが示唆された。一方、これらの経路はニューロンを刺激した際に駆動される脳血管の拡張メカニズムには関与せず、ニューロンの活性化による血管作動性物質としては、主にCOX/NO系のシグナル伝達を介した局所的な血管の調節メカニズムが示された。

原因となる細胞に特化した脳血管機能の「回復・治療・予防」につながる可能性

これまでに脳の活動時に見られる脳の血流増加は、ニューロンの活動に由来した血管作動性物質の放出による「直接の作用」と、神経活動に付随して生じるグリア細胞の活動に由来した「間接の作用」によって調節されることがわかっていた。今回の研究では、オプトジェネティクスを用いてこれらの細胞を独立に活動させることで、ニューロンとグリア細胞による脳血管の調節メカニズムに関して、それぞれに異なる調節メカニズムがあることが判明。さらに、それぞれの細胞によって拡張する血管の作用点が異なることも明らかになった。

認知症などの脳疾患では、脳の活動時にみられる機能的充血の機能が低下していることが知られている。主な原因として、脳の血管の機能が低下し血管の数が減少しているためと考えられているが、そもそも血管を拡張させるニューロンあるいはグリア細胞の機能が低下している可能性もある。脳の血流低下の原因となる細胞の活動がわかることで、病態に応じて細胞の障害に特化した脳血管機能の回復、治療、機能低下の予防につなげられるとしている。

「本研究で報告した実験手法は、さまざまな脳の疾患でみられる脳の機能的充血の低下に関して、その病態に応じた障害のメカニズムを明らかにするのに有用であると考えられる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • トイレは「ふた閉め洗浄」でもエアロゾルは漏れる、その飛距離が判明-産総研ほか
  • AYA世代の乳がん特異的な生物学的特徴を明らかに-横浜市大ほか
  • 小児白血病、NPM1融合遺伝子による誘導機序と有効な阻害剤が判明-東大
  • 抗血栓薬内服患者の脳出血重症化リスク、3種の薬剤別に解明-国循
  • 膠原病に伴う間質性肺疾患の免疫異常を解明、BALF解析で-京都府医大ほか