医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 重篤な希少疾患「NGLY1欠損症」、遺伝子治療が有効な可能性-理研ほか

重篤な希少疾患「NGLY1欠損症」、遺伝子治療が有効な可能性-理研ほか

読了時間:約 3分5秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年06月16日 AM11:30

全身に重篤な症状のNGLY1欠損症、世界で100人以下

(理研)は6月15日、Ngly1遺伝子を欠損させたNgly1-KOラットの脳室内にヒトのNGLY1遺伝子を導入することで、運動機能が劇的に改善することを明らかにしたと発表した。この研究は、理研開拓研究本部鈴木糖鎖代謝生化学研究室の藤縄玲子テクニカルスタッフ、鈴木匡主任研究員、武田薬品工業リサーチT-CiRAディスカバリーの朝比奈誠主任研究員らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Brain」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

真核細胞の細胞質に広く存在するペプチド「N-グリカナーゼ」()は、タンパク質の品質管理に関わるN-結合型糖鎖脱離酵素で、Ngly1遺伝子にコードされている。鈴木糖鎖代謝生化学研究室ではこれまで、PNGaseの生理機能の研究を進めてきた。

2012年、ヒトにおいてNGLY1遺伝子の変異による遺伝性疾患の「」が発見された。NGLY1欠損症の患者数は世界中で100人以下であり、非常にまれな疾患だ。その症状は発育不全、四肢の筋力低下、不随意運動、てんかん、脳波異常、新生児の肝機能障害、無涙症、背骨の彎曲(わんきょく)など全身性で多岐にわたる。

Ngly1欠損ラット脳室にAAV9ベクターでヒトNGLY1遺伝子を導入

理研と武田薬品工業は、NGLY1欠損症の治療法の開発を目指し、2017年から共同研究(NGLY1 deficiency Project)を実施している。これまでに患者の症状と類似した表現型を示す動物モデルを開発してきた。今回は、開発したNgly1遺伝子を欠損させたNgly1-KOラットに、ヒトのNGLY1遺伝子を導入することで、さまざまな表現型に改善が見られるかどうかを調べた。

NGLY1欠損症患者に見られる症状の多くは中枢神経系の異常によると考えられていることから、研究グループはヒトNGLY1遺伝子をNgly1-KOラットの脳室内に投与した。ベクターは、神経系の細胞に遺伝子導入の効率が高いとされるアデノ随伴ウイルスのセロタイプ9(AAV9)とした。また、これまでの解析からNgly1-KOラットで最も早くに観察される表現型は神経の炎症で、5週齢のラットにその表現型が観察される一方で、2週齢のラットでは観察されないことから、3週齢ラットを用いた。

中枢神経系の器官で限局的にNGLY1遺伝子の発現を確認

AAV9を用いてヒトNGLY1遺伝子を3週齢Ngly1-KOラットの脳室内に投与したところ、大脳、小脳、脊髄といった中枢神経系の器官でNGLY1遺伝子の発現が確認された。また、発現したタンパク質が酵素PNGase活性を持つかどうかを確認したところ、ラットの脳組織では活性が認められた一方、肝臓での活性は見られなかった。

NGLY1タンパク質(PNGase)は、アミノ酸のAsn(アスパラギン)と糖のGlcNAc(Nアセチルグルコサミン)の間のアミド結合を切断することから、これまでに、NGLY1欠損症患者の血清および尿におけるバイオマーカーとして、Asn-GlcNAcが同定されており、Ngly1-KOラットの尿中および血清中でもAsn-GlcNAcが著しく上昇する。

NGLY1遺伝子導入によってNgly1-KOラットの脊髄中のAsn-GlcNAcレベルは減少したが、血清や肝臓では減少しなかった。つまり、Asn-GlcNAcレベルの減少は、NGLY1遺伝子の発現された部位に限局されることが示された。

運動機能が著しく改善、中枢神経系が治療の有力な標的器官と判明

次に、NGLY1遺伝子を投与したNgly1-KOラットに対して、協調運動と運動学習を測定するロータロッドテストおよび歩行の異常を検出する足跡分析を行ったところ、運動機能に著しい改善が見られた。また、神経炎症の減弱は確認されたが、組織学的に観察される神経変性には回復は見られなかった。

今回の研究から、Ngly1-KOラットの表現型は可逆的(治療により症状が回復する)であることが初めて示され、T-CiRAチームがこれまでに開発してきたモデル動物はNGLY1欠損症の前臨床研究に有用であることが示された。また、少なくともNGLY1欠損症で観察される運動機能の失調の一部は中枢神経系の異常によるもので、脳を含めた中枢神経系が治療の有力な標的器官であり得ることが明らかになった。

患者団体との連携を継続し病態解明、治療法開発に向け加速を目指す

これまでに鈴木糖鎖代謝生化学研究室は、患者団体であるGrace Science FoundationとNgly1研究に関する情報を共有してきたが、本研究はGrace Science Foundationが主体となる遺伝子治療による臨床試験の推進に大いに貢献すると期待できるという。研究グループは、今後もさらにGrace Science Foundationとの連携を深め、NGLY1欠損症の病態解明や治療法開発のための研究を加速していくことを目指しているとしている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • トイレは「ふた閉め洗浄」でもエアロゾルは漏れる、その飛距離が判明-産総研ほか
  • AYA世代の乳がん特異的な生物学的特徴を明らかに-横浜市大ほか
  • 小児白血病、NPM1融合遺伝子による誘導機序と有効な阻害剤が判明-東大
  • 抗血栓薬内服患者の脳出血重症化リスク、3種の薬剤別に解明-国循
  • 膠原病に伴う間質性肺疾患の免疫異常を解明、BALF解析で-京都府医大ほか