EBウイルス感染によるエンハンサー領域活性化機構を探求
千葉大学は6月15日、エプスタインバー(EB)ウイルス胃がんについて、ウイルス感染が胃がんを引き起こす新たなメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院分子腫瘍学の金田篤志教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」に掲載されている。
画像はリリースより
がんは、ゲノム配列の変異とエピゲノムの異常が蓄積することで生じる。胃がんは細菌やウイルスなどの感染が発症に大きく関わる疾患で、日本で年間13万人以上が罹患するとされている。EBウイルスが原因となる胃がんは、その約1割を占める。
研究グループは、これまでにエピゲノム網羅的解析を用いて、EBウイルス感染により多くの増殖遺伝子のプロモーター領域が不活化されたり、多くの増殖関連遺伝子のエンハンサー領域が活性化されたりすることなど、ウイルス感染から発がんに至るメカニズムを解明してきた。今回、研究グループは、EBウイルスの感染によりエンハンサー領域が活性化する機構をさらに詳しく探求した。
WNTシグナル関連の遺伝子群、転写因子EHFが認識するゲノム領域が異常に活性化
研究グループはまず、遺伝子発現やエピゲノム状態の網羅的解析を実施。重要ながんシグナルであるWNTシグナルに関連する遺伝子群や、転写因子EHFが認識するゲノム領域が、EBウイルス胃がんで異常に活性化していることがわかった。
続いて、EBウイルスに感染した胃培養細胞を用いて、転写因子EHFがWNTシグナルに関与するfrizzled 5(FZD5)遺伝子のエンハンサーに結合してFZD5発現を上昇させることを確認。EHFを発現低下させると細胞増殖が低下し、FZD5などWNTシグナル関連遺伝子が発現低下したという。
STAT3発現量減の細胞、EHFやFZD5発現低下で細胞増殖低下
さらに、EHFの発現上昇は、ウイルス感染で発現するタンパク質LMP2Aが、転写因子STAT3のリン酸化を起こすことに起因することを確認。STAT3の発現量を減少させた細胞では、下流のEHFやさらに下流のFZD5が発現低下し細胞増殖が低下することがわかった。同じ細胞でEHF発現を回復させるとFZD5発現や細胞増殖も回復した。
今回の研究成果は、胃がんをはじめEBウイルスが関与する多くの悪性腫瘍についての原因の解明や治療法確立につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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