非侵襲的な診断法の開発が求められるNAFLD/NASH
大阪大学は6月11日、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)におけるバイオマーカーの網羅的探索を行い、トロンボスポンジン2が有用な診断・予後予測の非侵襲的バイオマーカーとなることを証明したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院の木積一浩医員、同大大学院医学系研究科の小玉尚宏助教、竹原徹郎教授(消化器内科学)らの研究グループが、ニューキャッスル大学のクエンティン・アンスティ教授らの研究グループとの国際共同プロジェクトとして行ったもの。研究成果は、「HEPATOLOGY」に掲載されている。
画像はリリースより
NAFLDは、飲酒量が少ないにも関わらず肝臓に過剰な脂肪蓄積を認める疾患であり、肥満人口の増加を背景に近年急増している。全世界での有病率は20~30%にも及び、最も罹患者数の多い肝疾患だ。NAFLDの中で、約10%を占めるNASHは病態が進行性で肝硬変への進展や肝がんの発生母地になることから、その適切な診断は極めて重要。また近年、肝線維化がNAFLDの生命予後に最も強く関連することが報告され、肝線維化高度進展例を同定することは治療介入や予後予測の点からも非常に重要だ。NASHの診断や肝線維化の程度を把握できる最も信頼性の高い検査は、肝臓の一部を針で採取して病理診断を行う経皮的肝生検ですが、侵襲性が高いことから血液検査や画像検査など非侵襲的な診断法の開発が求められている。
近年、次世代シーケンサー装置などを用いて生体内の分子を網羅的に調べることで、疾患や病態との関係を明らかにしていくオミックス解析技術がさまざまな疾患で用いられている。中でもトランスクリプトーム解析と呼ばれる遺伝子転写産物を網羅的に解析する技術を用いたバイオマーカーの探索は広く行われているが、NAFLDにおいてはいまだ十分に活用されていない。
NAFLD患者検体の遺伝子発現を解析、THBS2が診断と予後予測に有用と証明
研究グループは、98人の日本人NAFLD患者、ならびに206人の欧州人NAFLD患者の肝組織を用いてトランスクリプトーム解析を行い、NASHまたは肝線維化が進行した症例において肝臓内で発現が亢進する分泌タンパク質を網羅的に探索。そしてトロンボスポンジン2(THBS2)遺伝子に注目した。結果、肝組織におけるTHBS2の遺伝子発現量により、NASH並びに肝線維化高度進展例を高精度で診断できることを証明した。また、THBS2遺伝子の発現量は、NASHの病理学的な特徴である肝細胞風船様変性や、肝線維化を形成するI型コラーゲンの発現と正の相関を認めることを明らかにした。
次に、213人の日本人NAFLD患者血清を用いて、THBS2遺伝子から産生される分泌タンパク質トロンボスポンジン2(TSP-2)の診断精度を評価した。その結果、TSP-2の発現はNASH症例並びに肝線維化進展症例において有意に上昇しており、血清TSP-2値によりNASH並びに肝線維化高度進展例を高精度で診断できることを証明した。
血清TSP-2、NAFLDの非侵襲的バイオマーカーとして臨床応用に期待
さらに、血清TSP-2値により、肝硬変に伴う腹水・食道静脈瘤といった重篤な合併症や肝がん発症リスクの層別化も可能となることを見出した。以上より、トロンボスポンジン2がNAFLDにおける非侵襲的な診断・予後予測バイオマーカーとなることが証明された。
研究グループは、「今回の研究により同定されたバイオマーカーであるトロンボスポンジン2の臨床応用が進むことで、NAFLD患者の中から病態の進行するNASH並びに生命予後に直結する肝線維化高度進展例を非侵襲的に診断することが可能となり、早期の治療介入や適切な経過観察に繋がることで生命予後の改善に寄与することが期待される」と、述べている。
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・大阪大学 ResOU