妊娠中の「新築」や「増改築」と、生まれた子どもの喘鳴の関連は?
兵庫医科大学は6月11日、妊娠中に自宅の増改築を行った妊婦から生まれた子どもは、しなかった妊婦から生まれた子どもに比べて生後1歳までの喘鳴(ぜんめい)・反復性喘鳴の発症頻度が高いことが明らかとなったと発表した。この研究は、同大小児科学の藤野哲朗氏らとエコチル調査兵庫ユニットセンターらの研究グループによるもの。研究成果は、「Allergology International」に掲載されている。
画像はリリースより
乳幼児は年長児に比べて解剖学的な特徴などから、気道が狭くなりやすく、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューする呼吸)が起こりやすいとされている。また、ぜんそくの約80~90%は6歳までに発症しており、小児ぜんそくの発症において乳児期の喘鳴の管理が重要と考えられている。乳幼児喘鳴、ぜんそくの原因としてはウイルス感染、受動喫煙、ハウスダストやダニなどの吸入抗原や、家族歴、性別、アレルギー素因などの個体因子も発症リスクと関連していることがこれまでに報告されている。
加えて、妊娠中の喫煙が生まれた子どものぜんそく発症を増加させることや、妊娠中の農村での居住がぜんそくの発症を減少させることが報告されており、妊娠中の環境因子が生まれた子どものぜんそく発症に関連していることがこれまでに知られている。しかし、さまざまな環境因子に対しての検討は十分とはいえない状況である。今回、研究グループは、妊娠中の新築や増改築と生まれた子どもの喘鳴との関連について検討した。
約7万5,000人が対象、アレルギー疾患の既往や呼吸器感染の既往などを考慮して解析
エコチル調査に登録された妊婦の妊娠中期、生まれた子どもの生後1か月および1歳の時に実施された両親に対する約10万人のデータのうち自記入式質問票に有効な回答があった7万5,731人に対して妊娠中に新築・増改築を行った妊婦と生まれた子どもの生後1歳での喘鳴と反復性喘鳴の関連についてそれぞれ検討を行った。
妊婦の喫煙歴・アレルギー疾患の既往・社会経済背景、生まれた子どもの性別・アレルギー疾患の既往・呼吸器感染の既往などを共変量としてロジスティック回帰分析を用いて統計解析をした。さらに、これまでに子どもの喘鳴、ぜんそくのリスク因子として知られている、妊婦のアレルギー疾患の既往、生まれた子どもの呼吸器感染症の既往の有無で層別化し、追加で解析を行った。
妊婦のアレルギー疾患の既往にかかわらず、「増改築」したグループで喘鳴リスクが上昇
「自宅の増改築」について、データの不備等を除き、最終的に7万4,968人の妊婦が検討の対象となり、生まれた子どもの喘鳴の有症率は、妊娠中に増改築した妊婦から生まれた子どもで23.3% (545/2,341人)、しなかった妊婦から生まれた子どもで19.3%(1万3,996/7万2,627人)であった。
ロジスティック回帰分析では、妊娠中に増改築をした妊婦から生まれた子どもは、しなかった妊婦から生まれた子どもに比べて生後1歳までの喘鳴の頻度が1.33倍、反復性喘鳴(同研究では4回以上の繰り返す喘鳴エピソードを反復性喘鳴と定義)の頻度が1.22倍とわかった。一方、妊娠中に「自宅を新築」した妊婦と生まれた子どもの喘鳴の発症頻度との関係は明らかではなかった。
妊婦のアレルギー疾患の既往の有無で層別化した解析では、妊婦のアレルギー疾患の既往の有無にかかわらず、妊娠中に増改築を行った妊婦の群は、増改築をしなかった妊婦の群に比べて生まれた子どもの喘鳴のリスクが上昇していた(アレルギー疾患の既往あり群1.25倍、アレルギー疾患の既往なし群1.44倍)。
生まれた子どもの呼吸器感染症の既往歴の有無で層別化した解析では、生まれた子どもの呼吸器感染既往の有無にかかわらず妊娠中に増改築を行った妊婦の群は、増改築をしなかった妊婦の群に比べて、生まれた子どもの喘鳴発症のリスクが上昇していた(既往あり群1.18倍、既往なし群 1.51倍)。一方、妊娠中に自宅を新築した妊婦と生まれた子どもの喘鳴との関係は、層別化解析でも関連はみられなかった。
新築と増改築でなぜ異なる結果となったかなどを今後検討
今回の検討の結果から、妊娠中に増改築した妊婦から生まれた子どもは、そうでない妊婦から生まれた子どもと比較して、1歳までの喘鳴と反復性喘鳴の頻度が高いことが観察された。また、妊娠中に増改築した妊婦から生まれた子どもは、そうでない妊婦から生まれた子どもと比較して、妊婦のアレルギー疾患の既往や生まれた子どもの呼吸器感染症の既往という、これまでに知られている喘鳴のリスク因子の有無にかかわらず喘鳴の頻度が高くなっていた。
一方、同研究は、増改築や喘鳴の有無は質問票への回答によって評価したものであり、増改築の種類や程度、喘鳴の重症度は明らかでないこと、また、妊娠中の増改築と生まれた子どもの乳児期の喘鳴との関連の機序が不明であることなどを考慮しなければならない。
「今後、妊娠中に増改築を行ったことと生まれた子どもの1歳以降のぜんそくとの関連を検討していくことで、妊娠中に増改築を行うことが生まれた子どもの乳児期の喘鳴だけでなくぜんそくの発症にも関係していくかが判明する可能性がある。また、妊娠中に増改築を行うことが生まれた子どもの喘鳴に影響を与える機序や、新築と増改築でなぜ異なる結果となったかなどについて、さらなる研究が必要だ」と、研究グループは述べている。
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・兵庫医科大学 ニュースリリース