国際ランダム化比較試験で胎児鏡下気管閉塞術の有効性を評価
国立成育医療研究センターは6月11日、先天性横隔膜ヘルニアに対する胎児鏡下気管閉塞術の有効性を評価する研究を行った結果、国際ランダム化比較試験(TOTAL trial)において、胎児鏡下気管閉塞術が先天性横隔膜ヘルニアの胎児の生存率を有意に改善させることを証明したと発表した。この研究は、同センター周産期・母性診療センターの左合治彦センター長が参加している国際的な研究グループ(代表:ベルギー ルーベン大学Jan Deprest教授)によるもの。研究成果は、「The New England Journal of Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
先天性横隔膜ヘルニアは、先天的な横隔膜の欠損により腹腔臓器が胸腔に入ってくるため、肺の発育が妨げられる疾患。出生児の約4,000人に1人の割合で発生し、その約85%は左側の欠損だ。欠損の部位や大きさによってほとんど症状や障害が見られない場合もあるが、重症例では出生直後から肺高血圧や呼吸不全等の重大な症状をきたし、死亡率も高い。出生後に横隔膜の欠損部位を修復する根治手術が必要となる。
胎児鏡下気管閉塞術(Fetal Endoscopic Tracheal Occlusion:FETO)は、内視鏡の一種である「胎児鏡」を用いて行う胎児治療。母体の腹部から子宮内へ胎児鏡を挿入、そこから胎児の気管に入り小さなバルーンを置いておくことで、胎児の気管を一定期間だけ閉塞させる。すると肺胞液が外に出ないため肺にたまり、肺が拡張して成長が促され、出生後の呼吸状態が改善することにつながる。
先天性横隔膜ヘルニアの胎児治療については、これまで諸外国においてさまざまな取り組みが行われてきたが、効果の有無についてさまざまな報告がなされ結論には至らなかった。そのため、本研究のような国際ランダム化比較試験による胎児鏡下気管閉塞術の有効性を評価する研究が求められていた。
胎児鏡下気管閉塞術は有効、出生後の生存率を優位に改善
今回の研究は、ベルギー、イギリス、フランス、アメリカ、日本など12か国における、胎児治療を実施する10施設と、新生児治療を実施する26施設が参加した国際的なもの。対象患者は80人で、胎児治療を行う群(胎児治療群:40人)と、行わない群(待機群:40人)にランダムに振り分けられ、胎児鏡下気管閉塞術の効果について評価された。その結果、34週以前の破水や37週以前の早産などは増えるが、NICU生存退院、6か月生存ともに、胎児治療群は待機群に比べて2倍以上高くなることがわかり、胎児治療の有効性が証明された。
今回の研究には、アジアから同センターのみが参加し、研究成果も世界で始めて胎児鏡下気管閉塞術の有効性を示したものとして大変貴重だといえる。研究グループは、「重症の先天性横隔膜ヘルニアの胎児に対して、今後は胎児鏡下気管閉塞術が有効な治療法として用いられることが期待される。将来的な保険導入を目指すために、先進医療などで本治療を行うことが望まれる」と、述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース