加齢が小腸パネト細胞のαディフェンシン分泌へ及ぼす影響は?
北海道大学は6月11日、小腸のパネト細胞から分泌される自然免疫の作用因子である抗菌ペプチドαディフェンシンが高齢者では若年者に比べて低いことを示し、そのことが高齢者における腸内細菌叢の変化(遷移)に関与していることを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院先端生命科学研究院の中村公則准教授、綾部時芳教授と、同大大学院医学研究院の玉腰暁子教授との共同研究グループによるもの。研究成果は、加齢医学の国際学術専門誌「GeroScience」にオンライン公開されている。
画像はリリースより
これまで、加齢に伴う腸内細菌叢の組成遷移が疾患リスクの上昇に関与することが知られていたが、加齢に伴う腸内細菌叢の遷移を引き起こす原因は明らかにされていなかった。
一方、中村准教授らの研究グループはこれまでに、小腸のパネト細胞が分泌するαディフェンシンが、腸内細菌叢を調節することで腸管の恒常性維持に貢献していることを明らかにしていた。また、このαディフェンシン分泌誘導を促進する食成分などに関する研究も進めていた。さらに、これまでに腸内細菌叢の異常が、肥満症、糖尿病、脂肪肝炎などの生活習慣病、免疫疾患、うつ病や自閉症、大腸がんなどさまざまな病気に関与することが報告されていた。そのため、加齢に伴うパネト細胞の機能異常が腸内細菌叢組成の遷移を誘導することで、さまざまな疾患リスクを亢進させる可能性が考えられるが、加齢がαディフェンシン分泌へ及ぼす影響は、これまで全く不明だった。
αディフェンシン分泌量は加齢に伴い低下、70歳超は中高年者より有意に低い
そこで研究グループは、腸内細菌を制御するヒトのαディフェンシンに着目し、加齢に伴って高齢者ではパネト細胞からのαディフェンシン分泌量が減少することにより、若年者と比べて腸内細菌叢の遷移が起きるのではないかという仮説を立てた。これを証明するため、北海道寿都町に居住する人を対象とした玉腰教授の研究グループによる地域コホート研究(健康に暮らせる町づくりを目的とした生活習慣および健康状態の調査:DOSANCO健康調査)に参加した、消化器病の治療を受けていない196人の健常者から提供を受けた便を用いて、加齢がαディフェンシン(HD5)分泌量および腸内細菌叢に与える影響を清水研究員らが解析。便中のαディフェンシン量は、中村准教授が世界で初めて樹立したHD5酵素抗体法で解析し、同時に腸内細菌叢の組成についても詳細に解析することによって、加齢に伴うαディフェンシンと腸内細菌叢の関係を詳しく評価した。
その結果、健常成人のαディフェンシンは、年齢が高い人ほど少しずつその分泌量が低下し、さらに中高年者に比べて、70歳を超える高齢者ではαディフェンシンが有意に低いことが明らかにされた。加えて、腸内細菌叢組成の詳細な解析を行った結果、高齢者では多様性が中高年者と異なり、特徴的な腸内細菌が発見された。
これらのことから、高齢者ではαディフェンシン分泌量の低下が腸内細菌叢の遷移に深く関与していることが示唆された。これは、αディフェンシンと人の免疫老化の関係を初めて解明した画期的な成果と言える。
αディフェンシンの低下が、疾患リスクの上昇と関係する腸内細菌叢の組成変化に関与する可能性
今回の研究により、高齢者ではαディフェンシン分泌量が低いことが初めて示され、「免疫老化(immunosenescence)」のメカニズムが解明された。
これまで、高齢者では食事内容や運動などの生活スタイルの変化が腸内細菌叢に影響することが示唆されていたが、実際にどのようなメカニズムで年齢とともに腸内細菌叢が遷移していくのかはよくわかっていなかった。「本研究によって、加齢に伴うαディフェンシンの低下が、疾患リスクの上昇との関係が知られている腸内細菌叢の組成変化に関与する可能性が示され、自然免疫における免疫老化の影響が初めて明らかになった」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・北海道大学 プレスリリース