単科での治療、他のNF1症状への治療遅れなどの課題
名古屋大学は6月9日、名古屋大学医学部附属病院に神経線維腫症1型患者の院内診療ネットワークを構築し、その進捗状況を報告した。この研究は、同大医学部附属病院のリハビリテーション科西田佳弘病院教授、整形外科の生田国大助教、同大大学院医学系研究科精神医学の尾崎紀夫教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
神経線維腫症1型(NF1)は、「レックリングハウゼン病」としても知られ、カフェオレ斑と皮膚神経線維腫を主徴とする常染色体優性の遺伝性疾患。その他に骨、眼、神経系などに多彩な症候を呈する。性別や民族に関係なく、2,500〜3,000人に1人が罹患するとされている。成人期の合併症には、中枢神経系腫瘍、悪性腫瘍、認知障害、血管障害などがある。
叢状神経線維腫は、NF1患者の最大60%に発症。痛みや外観の問題を引き起こし、悪性転化を起こす可能性がある。悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)は、NF1に関連する最も多い悪性腫瘍であり、生涯リスクは5.9〜15.8%。NF1患者の平均余命が一般より8〜20年短い一因と考えられている。このように、さまざまな症状があり、悪性腫瘍発生の可能性があるNF1患者にとって、単一の診療科で治療することは不適切と考えられる。
米国では、2007年に小児腫瘍財団によって神経線維腫症クリニックネットワークが設立され、全国的な神経線維腫症に対する診療レベルの標準化と向上を図っている。一方、日本では、学際的な治療を行うNF1クリニックがなかったため、NF1治療は、一般的に1つの症状に対して1つの部門の専門家によって行われてきた。単科での治療により、NF1の他の症状に対する治療の遅れなどの問題がある。
これらの問題を解決するために、2014年から多科多職種による院内NF1診療ネットワークを構築し、推進してきた。今回の研究目的は、このNF1医療ネットワークの立ち上げの過程と、その進捗状況を紹介することである。
2014年1月~2020年12月で、患者246人がNF1患者リストに登録
NF1院内診療ネットワークは2014年1月に開始された。それ以前に初めて来院し、継続的に治療を受けているNF1患者に対しては、2014年以降に各科に対してNF1ネットワークとしての医療提供を要請した。2014年1月~2020年12月まで、246人の患者がNF1患者リストとして登録された。
初診時年齢が不明であった3人の患者を除いて、平均年齢は26歳(3か月~80歳)で、初診時の年齢が若いほど、患者数の分布は高くなった。男性は107人(41%)、女性は139人で、性別による年齢層別の初診者数を見ると、20代、30代の男性は女性よりも著しく少数だった。
5年ごとで受診者数をみると、NF1患者の数は著しく増加していた。特に、同診療ネットワークが開始された年から患者数が増加。家族歴が不明な15人の患者を除いて、家族性NF1は101人(44%)、非家族性は130人だった。
整形外科関連の症候に関しては、230人の患者で調査された。脊柱側弯症は60例(26%)に存在し、上腕、前腕、および脛骨の骨異常は8例(3.5%)で観察された。皮膚以外の神経線維腫は90例(39%)、MPNSTは17例(7.4%)で発症していた。
総合的なNF1患者診療で、多様な症候への的確な対処に期待
今回、日本で初めて多科多職種によるNF1診療ネットワークを構築した。このネットワークにより、総合的にNF1患者を診療することで多様な症候に対して的確に対処することが可能となるという。
また、このようなNF1クリニックが日本全国に構築されることで、診療の質が高まり、NF1患者やその家族に対して大きなメリットとなる。指定難病であるNF1患者レジストリーや実態把握にも寄与すると考えられる、と研究グループは述べている。
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