性腺機能低下を伴う進行がん患者にテストステロン補充で、がん悪液質を改善できるか?
金沢大学は6月8日、男性の進行がん患者に男性ホルモンの1つ「テストステロン」を投与することでがん悪液質を改善させる可能性があることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大医薬保健研究域医学系(泌尿器集学的治療学)の溝上敦教授、同大学附属病院泌尿器科の泉浩二講師、同大学がん進展制御研究所(がんセンター(腫瘍内科))の矢野聖二教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
進行がんではさまざまな精神的・身体的症状が現れるため、症状の緩和や生活の質(QOL)の改善を目的とした治療も必要とされる。男性の進行がんでは約7割の患者が低男性ホルモン(性腺機能低下)状態にあることが報告されている。進行がん特有の状態(がん悪液質)に伴う、体重減少、筋力低下、うつ、炎症や疼痛の増悪等の症状は、性腺機能低下でも引き起こされることから、進行がんの症状の一部は性腺機能低下によるものではないかと考えられている。しかし、性腺機能低下とがん悪液質との関連についてはいまだ詳細が明らかにされていない。
そこで、今回、研究グループは、性腺機能低下を伴う進行がん患者にテストステロンを補充することで、がん悪液質の状態を改善させることができるかについて検討した。今回の研究対象は、金沢大学泌尿器科およびがんセンターで進行がんと診断された男性患者。血中テストステロン値を測定し、加齢男性性腺機能低下症の指標である、トータル2.31ng/ml未満またはフリー11.8pg/ml未満のどちらかを満たした場合に性腺機能低下と定義した。性腺機能低下を有する症例をテストステロンエナント酸エステル250mg投与群(4週毎3回、筋注)または無治療群にランダム化し、QOL調査票および悪液質マーカーの変化等を前向き(最大12週後)に検討した。41人が無治療群、40人が投与群に割り付けられた。
無治療群に対し投与群でQOL「不幸感」、悪液質マーカー「TNF-α」が有意に改善
その結果、QOL調査票では投与群では無治療群と比較し、概ねQOL改善の傾向がみられたが、特に「不幸感」の点数が有意に改善していた(p=0.007)。
また、12週後、投与群では無治療群と比較し、悪液質マーカーの一つであるTNF-αの血中濃度に有意な改善が認められ(p=0.005)、経時的変化では無治療群でTNF-αとIGF-1(がん悪液質マーカー)の悪化も認められたが、投与群では悪化が認められなかった。両群とも、時間経過とともにフリーテストステロンが減少する傾向にある。無治療群ではテストステロンの上流にあたる下垂体ホルモンが横ばいから上昇していたが、投与群では低下しており、テストステロン補充の作用が顕著に見られたとしている。
その他、無治療群では貧血が進行する傾向があったが、投与群では有意な変化は認めらなかった。男性ホルモンは前立腺がんを悪化させる作用もあるため、前立腺がんの腫瘍マーカーである前立腺特異抗原を測定。その結果、いずれの群も12週での変化は認められなかった。
今後、大規模試験での検証により新規治療法として期待
同研究により、性腺機能低下ががん悪液質の一因であることが明らかになった。テストステロン補充療法による進行がん患者の一部の症状の改善は、より大規模な試験で検証を行うことにより、新たな治療法となることが期待される、と研究グループは述べている。
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