豊島区は区医師会と連携し、かかりつけ医による個別接種を推進してきた。通常は、保健所から接種を行うクリニックにワクチンが配送される仕組みだが、他の自治体に比べて個別接種の割合が高く、配送先が200軒のクリニックと分散されているため、配送業者を活用できない課題が浮き彫りになった。
そこで考えたのが、日常業務として医薬品の温度管理を担う薬剤師が医療機関にワクチンを配送するアイデアだ。区と医師会の要請を受け、区薬剤師会は4月からワクチンの配送業務を開始している。手挙げした薬局の中から約40軒の薬局を選定した。
区は保健所を基本型接種施設として登録。週に2回、区薬剤師会の薬剤師が保健所に届けられたワクチンの小分け作業を行った後、委託している配送業者が薬局に運び込む。
薬局では、薬剤師が医療機関が発注した接種分のワクチンバイアルと接種用シリンジ・針、希釈用シリンジ・針、精製用の生理食塩水など付属品一式をドライアイス入りの保冷箱に詰めて、クリニックに配送する。
一つの薬局につき、5軒の医療機関を担当するが、衝撃や温度逸脱など品質管理上の問題が発生することを避けるため、車や自転車を使わずに歩いて届けている。
区薬剤師会は、ワクチンの配送に当たって薬剤師向けの研修を実施し、配送のマニュアルを策定するなど準備を進めてきた。多忙な医師の診療に妨げにならないようできるだけ診療時間を避けるようにしているが、ワクチンの品質を保持できる期間もあるため、診療中にワクチンを届けなくてはならないことも多いという。
豊島区薬剤師会の佐野雅昭会長は、「迅速にワクチン接種を進めるという目的が明確であり、配送上のトラブルがあっても薬局と医療機関がお互いに話し合いながら良い方向で取り組むことができている」とし、「医師からも、いつもワクチンを届けてくれてありがとう、という感謝の言葉をかけてもらえるようになった」と手応えを語る。
さらに、「薬局と医療機関の間で顔が見える関係を構築できたことで、災害医療でも薬剤師が活躍できる環境にもつながる」と話している。