超音波内視鏡下穿刺吸引生検の病理診断は高い専門性を要する
久留米大学は6月3日、超音波内視鏡下穿刺吸引生検病理組織標本における膵腺がんを検出する人工知能の開発に成功したと発表した。この研究は、同大医学部病理学講座の矢野博久教授、大学病院病理部の秋葉純教授、内藤嘉紀准教授らを中心とする研究グループが、全国の膵臓病理専門医を有する医療機関およびメドメイン株式会社(Medmain Inc.)と共同で行ったもの、研究成果は、「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
超音波内視鏡下穿刺吸引は、胃や十二指腸などの消化管から超音波内視鏡で粘膜下や壁外の病変あるいは胸腹部や骨盤内の腫瘤を観察し、消化管内から針を穿刺して細胞を採取する方法。日本において膵臓がんの罹患率・死亡率はともに増加しており、患者に症状が出たときにはすでに進行していることがある。そのため、膵臓は沈黙の臓器とも呼ばれている。
治療方針の決定には、正確な画像診断と共に、病理細胞学的な診断が必要だ。超音波内視鏡下穿刺吸引法は欧米を中心に普及してきた経緯があるが、2010年に保険適用となったことを受け、国内でも普及し始め、現在は膵臓がん診断の主流になりつつある。
久留米大学病院は、地域医療における膵臓がん診療の最前線として機能している。その診療を行う上で重要な病理診断は、超音波内視鏡下穿刺吸引生検を中心に実施されているが、得られる組織検体は極少量であるため専門性の高い病理診断となっている。そこで今回、久留米大学病院、および全国の膵臓病理専門医を有する医療機関、メドメイン株式会社で多施設共同研究グループを形成し、人工知能開発を行った。
全国多数の病理医が教師データを作成し深層学習、AUC0.98と高精度
研究ではまず、久留米大学病院が膵超音波内視鏡下穿刺吸引生検標本を提供し、標本をデジタル化。その後、深層学習のための教師データを、全国多数の共同研究施設の病理医が作成し、深層学習を行なうことで人工知能を開発した。開発した人工知能は、久留米大学で別途用意したデジタル標本のうち、3名の膵臓を専門とする病理医により診断のコンセンサスが得られた症例を検証症例として用い、精度の検証を行った。
その結果、膵腺がんの検出において、ROC-AUCが0.98、正解率94%、感度0.93、特異度0.97という、極めて精度の高い結果が得られた。また、病理医による検証の結果、十分な妥当性もあることが検証された。
研究グループは、「今後この成果を活用した膵臓がん検出のシステム構築が進むことが期待され、さまざまな形の人工知能が病理診断をサポートできるシステムが構築されていくことで、患者様への適切な診療提供の基礎となる病理診断精度が安定することが期待される」と、述べている。
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