65歳未満の医療ビッグデータを対象に、虚血性心疾患・脳卒中の発症しやすさを検討
新潟大学は6月3日、収縮期血圧120mmHg以上の軽度の血圧上昇であっても、虚血性心疾患、脳卒中発症リスクがともに統計学的に有意に上昇することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部血液・内分泌・代謝内科研究室の山田万祐子医師、藤原和哉准教授、曽根博仁教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Diabetes Care」に掲載されている。
画像はリリースより
心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、脳梗塞や脳出血などの脳卒中は、生活の質(QOL)の低下や健康寿命を短縮させることから、発症予防が重要となる。高血圧と糖尿病はいずれも、虚血性心疾患・脳卒中発症のリスクを上昇させるとされてきたが、正常(120/80mmHg未満)と比べ、血圧の上昇により、虚血性心疾患・脳卒中発症リスクがどの程度上昇するかを、血糖正常、前糖尿病(いわゆる糖尿病予備軍)、糖尿病の3つの血糖状態において、同一集団で詳細に検討した報告はほとんどなかった。
今回、研究グループは株式会社JMDCと共同で、診療報酬請求(レセプト)と健診の大規模データを連結して解析した。具体的には、健診と健康保険レセプトデータを合わせた分析により、2008~2016年に健診を受け、3年以上追跡可能だった過去に虚血性心疾患、脳卒中の既往のない18~64歳の59万3,196人を抽出。血糖の段階別(血糖正常、糖尿病予備軍、糖尿病)に、カテーテル治療やバイパス手術などを要した重症虚血性心疾患、および血栓溶解療法や血管内治療など、入院治療を要した脳卒中の発症を同定した。その後、年齢、高LDL(悪玉)コレステロール血症、低HDL(善玉)コレステロール血症、喫煙、肥満などの、既知の虚血性心疾患・脳卒中のリスク因子の影響を除き(補正)、収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧75mmHg未満と比較して、血圧値の上昇により、どの程度虚血性心疾患、脳卒中を発症しやすいかを血糖の段階別に検討した。さらに、血糖の段階と血圧レベルを組み合わせた分析を行った。
収縮期血圧120mmHg以上・拡張期血圧75mmHg以上でリスク上昇、糖尿病では虚血性心疾患が顕著に上昇
その結果、追跡期間(中央値)5.2年に2,240人が虚血性心疾患、3,207人が脳卒中を発症した。収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧75mmHg未満と比較すると、どの血糖の段階においても、比較的軽度の血圧値の上昇から虚血性心疾患・脳卒中発症リスクが上昇することが明らかとなった。収縮期血圧が120mmHg未満と比較して、120-129mmHg(正常高値血圧)では、血糖正常、糖尿病予備軍、糖尿病においてそれぞれ2.1倍、1.4倍、1.5倍虚血性心疾患発症リスクが上昇し、脳卒中の発症リスクがそれぞれ1.5倍、1.7倍、1.7倍上昇した。
さらに血糖の段階と血圧値を組み合わせて分析した結果、糖尿病では、収縮期血圧が120mmHg未満であっても、血糖正常および糖尿病予備軍の収縮期血圧が150mmHgと同程度虚血性心疾患を発症することが判明。また、高血圧と糖尿病は虚血性心疾患発症に相加的(加算的)に影響することが明らかとなり、血糖正常で収縮期血圧が120mmHg未満と比較して、糖尿病かつ収縮期血圧150mmHg以上では、虚血性心疾患発症リスクは8.4倍上昇した。一方で、高血圧が脳血管疾患発症に与える影響は、血糖の段階によらず、約5倍程度とほぼ一定であることが判明した(血糖正常で収縮期血圧が120mmHg未満と比較して、血糖正常、糖尿病予備軍、糖尿病の収縮期血圧が150mmHgにおける脳卒中リスクはそれぞれ5.0倍、4.4倍、5.6倍)。また拡張期血圧においても、収縮期血圧と同様な傾向が明らかとなった。
以上の結果から、いずれの血糖の段階においても、収縮期血圧120mmHg以上、拡張期血圧75mmHg以上から虚血性心疾患、脳卒中発症リスクが段階的に上昇することが明らかになった。また、高血圧と糖尿病が虚血性心疾患発症に相加的(加算的)に影響するのに対し、高血圧が脳卒中発症に与える影響は、血糖の段階によらずほぼ一定であることが判明した。
血圧値が少し高い程度の早期から減塩を含む生活習慣改善に取り組むことが重要
今回の研究成果により、糖尿病の有無に関わらず、世界の現行診療ガイドラインの診断基準値(140/90mmHg)よりもかなり低い血圧値から、虚血性心疾患、脳卒中リスクが統計学的に有意に上昇することが判明した。つまり、血圧値が正常より少し高い程度の段階であっても、早期から減塩を含む生活習慣改善に取り組むことの重要性が明らかになった。しかし、血圧が軽度上昇している集団に対して、薬物療法などの治療介入を行うことで虚血性心疾患、脳卒中発症のリスクが低下するかを検討したものではないため、今後、生活指導や薬物による治療介入研究を行うことにより、虚血性心疾患、脳卒中リスクが低下するのかを確認する必要がある。
「医療ビッグデータをさらに活用し、血圧や血糖に限らず、健康寿命の延伸を妨げる要因を分析し、生活習慣病や動脈硬化疾患の予防と治療に役立つ科学的エビデンスを構築していく予定だ」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・新潟大学 ニュース