対象は新規ANCA関連血管炎発症の国内患者140人
山梨大学は5月27日、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症に対する新治療法の臨床試験(LoVAS試験)を実施し、新治療法では治療効果を維持しつつ、副腎皮質ステロイドの使用量を従来の3分の1程度に抑えられることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院リウマチ膠原病内科の中込大樹病院准教授と千葉大学医学部附属病院アレルギー・膠原病内科の古田俊介特任講師、大学院医学研究院アレルギー・臨床免疫学の中島裕史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of the American Medical Association(JAMA)」に掲載されている。
画像はリリースより
顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症は、免疫の異常によって全身の毛細血管や小動脈に炎症を起こす自己免疫疾患で、厚生労働省の定める指定難病だ。抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasm antibody:ANCA)が陽性になることから、ANCA関連血管炎とも呼ばれており、国内では両疾患合わせて患者数約1万2,000人とされている。
無治療の場合は呼吸不全や腎不全に至る可能性があるが、現在では、大量副腎皮質ステロイドと免疫抑制剤の併用治療で80%程度が寛解達成できるようになった。一方で、大量の副腎皮質ステロイド投与に起因する感染症や骨粗しょう症、脂質・糖代謝異常などの副作用が大きな問題となっている。
ANCA関連血管炎は自己免疫疾患の中でも、抗体の産生源であるB細胞の関与が強い病気だと知られている。近年、自己免疫疾患に対するリツキシマブによるB細胞除去療法の臨床応用が進んでおり、研究チームは、ANCA関連血管炎においてもリツキシマブによるB細胞除去療法を利用することで副腎皮質ステロイドの使用量を抑えることができ、副作用の少ない治療を実現できると考えた。
今回の臨床研究は、新規にANCA関連血管炎を発症した国内の患者140人を対象に、少量副腎皮質ステロイド+リツキシマブで治療する群、従来通りの大量副腎皮質ステロイド+リツキシマブで治療する群に1:1でランダム化割り付けして実施。少量副腎皮質ステロイド群では副腎皮質ステロイドの投与量をプレドニゾロン換算で体重1kgあたり0.5mg/日から治療を開始し、その後急速に減量し5か月後には投与を完全に中止した。
副腎皮質ステロイド使用量を従来の約3分の1に、治療効果も維持
大量副腎皮質ステロイド群では、体重1kgあたり1.0mg/日から治療を開始後、徐々に減量しながら、5か月後以降は10mg/日で維持した。半年間の副腎皮質ステロイドの総使用量は、少量副腎皮質ステロイド群で中央値1,318mg、大量副腎皮質ステロイド群で中央値4,151mgだった。
治療の効果はBVASという指標を用いて評価。治療開始後は、両群ともBVASスコアが減少し、疾患活動性が低下した。半年後に寛解(BVASスコア=0)を達成した割合は、少量副腎皮質ステロイド群で71%、大量副腎皮質ステロイド群で69%であり、治療の有効性は両群で同等であることが示された。
重篤な副作用は、大量副腎皮質ステロイド群では36.9%の患者に認められたのに対し、少量副腎皮質ステロイド群では18.8%と低下。副作用の中でも、重篤な感染症については、大量副腎皮質ステロイド群で20.0%の患者に認められたのに対し、少量副腎皮質ステロイド群では7.2%と特に大きく低下していたという。
従来の治療法と比べ、重篤な副作用発生頻度「減」に期待
今回の研究により、ANCA関連血管炎の治療にリツキシマブによるB細胞除去療法を併用すると、従来の治療法の効果を維持しながらも、副腎皮質ステロイドの使用量を従来の3分の1程度に抑えられることが判明。また、それにより従来の治療法と比べて重篤な副作用の発生頻度を減らすことができることが明らかとなった。
実際の診療でもこの新しい治療法が普及していくことが期待される、と研究グループは述べている。
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・山梨大学 プレスリリース