血糖管理目標のカテゴリー分類と死亡リスクの関連を縦断調査で検討
東京都健康長寿医療センターは5月6日、「高齢者糖尿病の血糖管理目標(HbA1c値)」のカテゴリー分類と死亡リスクの関連を、日本の6年間の縦断研究であるJ-EDIT研究のデータをもとに解析した結果を発表した。この研究は、同センター糖尿病・代謝・内分泌内科の荒木厚 副院長、大村卓也 研究所研究員らの研究グループによるもの、研究成果は、「Geriatrics & Gerontology International」に掲載されている。
画像はリリースより
日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会は「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c 値)」を公表し、「健康状態」「年齢」「低血糖が危惧される薬剤の有無」「併存疾患」で、患者を3つのカテゴリーに分類し設定している。一方、分類法に関して日本の縦断研究に基づくエビデンスはなかった。そこで、研究グループは今回、高齢糖尿病患者の縦断調査で、「認知機能」「手段的ADL」「基本的ADL」「併存疾患」による種々のカテゴリー分類と死亡リスクとの関連を検討した。
J-EDIT研究で6年追跡の843人対象に種々のカテゴリー分類、死亡リスク検討
解析の対象としたのは、J-EDIT研究において6年間追跡した高齢糖尿病患者843人(年齢71.9±4.7歳,男性384人,女性459人)。認知機能はベースラインのMMSE(カットオフ値27/26-22/21)、手段的ADLは老研式活動能力指標(カットオフ値12/11)、基本的ADLはBarthel Index(カットオフ値19/18)の各質問票を用いて評価し、カテゴリーⅠ~Ⅲに分類した(モデル1)。
また、モデル1の分類に加えて、「網膜症」「腎症」「神経障害」「虚血心性疾患」「脳血管障害」「悪性疾患」「肝疾患」「うつ」の8個の併存疾患の中から4個以上を有する場合にはカテゴリーⅢとする分類でも同様に解析を行った(モデル2)。
さらに、因子分析により老研式活動能力指標とBarthel Indexから抽出した8項目(買い物、食事の支度、預金管理、新聞を読む、友人の訪問、食事、トイレ使用、歩行)からなる「生活機能質問票8」の点数で3つのカテゴリーに分類し、死亡との関連を調べた(モデル3)。
身体/認知機能・併存疾患数に基づくカテゴリー分類は死亡リスクの予測因子に
結果、6年間に64人の全死亡が認められ、カテゴリーⅠに対する、カテゴリーⅡのハザード比は1.8(95% CI: 1.1-3.1)、カテゴリーⅢのハザード比は3.1(95% CI: 1.1-8.3)だった(モデル1)。併存疾患数を考慮したモデル2でも、カテゴリーが進むにつれてハザード比が上昇した。
8つの簡便な質問項目でカテゴリー分類が可能
「生活機能質問票8」を用いたモデル3でも同様の結果が得られた。層別解析では、特にSU薬・インスリンの低血糖をきたす可能性のある薬剤の使用群で、カテゴリーが進むほど死亡リスクが上昇した。
今回得られた結果は、認知機能やADLで評価した機能のカテゴリー分類が進むと、年齢、血糖、血圧、脂質のコントロール状態、腎機能、併存疾患数などを考慮しても、死亡のリスクが段階的に増加し、余命が少なくなることを意味するもの。これは現在の「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」のカテゴリー分類の考え方を支持するデータだ。
研究グループは、今回の成果について「患者の生活機能(認知機能やADL)、年齢、低血糖が危惧される薬剤の有、併存疾患を踏まえることが、個々の患者に最適な血糖コントロールを行ううえで極めて重要であることを再認識させてくれた。高齢糖尿病患者の治療では、血糖などの管理を行うこと以上に、「生活機能を維持することが大切である」とも言える」と、述べている。
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・東京都健康長寿医療センター プレスリリース