サーマルグリル錯覚の痛みの性質を明らかに
畿央大学は5月31日、サーマルグリル錯覚での「痛みの性質」を分析し、その痛みの性質が、脳卒中後や脊髄損傷後に生じる痛みの性質と似ていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大ニューロリハビリテーション研究センターの大住倫弘准教授、森岡周教授らと、東京大学医学部付属病院緩和ケア診療部の住谷昌彦准教授らとの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Scandinavian Journal of Pain」に掲載されている。
画像はリリースより
「サーマルグリル錯覚」とは、温かい棒と冷たい棒が交互に並べられているグリルに手を置くと、痛みをともなう灼熱感、ズキズキする痛み、しびれたような痛みが惹起される現象。この現象は、脊髄-大脳皮質における中枢神経メカニズムによって生じると説明されているが、実際に、そのような中枢神経が損傷した際の痛みと類似しているのかは、明らかにされていなかった。
帯状疱疹後神経痛・三叉神経痛とは類似せず、脊髄損傷後疼痛・脳卒中後疼痛と類似
研究グループはまず、健常者137人を対象に、サーマルグリル錯覚によって生じる痛みの性質を分析し、その痛みの性質が、帯状疱疹後神経痛(PHN)、三叉神経痛(TN)、脊髄損傷後疼痛(SCI)、脳卒中後疼痛(Stroke)における痛みの性質と似ているのか/異なっているのか、痛みの性質を分析した。その結果、「焼けるような痛み」のほかにも、「ずきんずきん」、「うずくような」、「しびれるような」などの痛みがサーマルグリル錯覚によって経験された。
次に、帯状疱疹後神経痛(PHN)131人、三叉神経痛(TN)83人、脊髄損傷後疼痛(SCI)42人、脳卒中後疼痛(Stroke)31人における痛みの性質が、先に抽出されたサーマルグリル錯覚によって生じる痛みの性質とどれだけ類似/相違しているのかを、Multiple correspondence analysis(MCA)とcross tabulation analysisを組み合わせて分析した。
その結果、末梢神経メカニズムに起因するような帯状疱疹後神経痛(PHN)、三叉神経痛(TN)とは類似しておらず、中枢神経メカニズムに起因するような脊髄損傷後疼痛(SCI)、脳卒中後疼痛(Stroke)と類似していることが明らかになった。これにより、サーマルグリル錯覚が中枢神経メカニズムによって生じるという説が支持されたことになる。
脊髄損傷後疼痛・脳卒中後疼痛の新規リハビリテーションの考案が可能に
今回の研究により、サーマルグリル錯覚の痛みが、脊髄損傷後疼痛あるいは脳卒中後疼痛と類似していることが明らかになった。この実験的疼痛を利用して、脊髄損傷後疼痛あるいは脳卒中後疼痛の新規リハビリテーションを考案することが可能と考えられる。
「これにより、脊髄損傷後疼痛・脳卒中後疼痛を有する人がどのような痛みを経験しているのかを健常者が疑似的に体験することができ、リハビリテーション専門家と患者の痛みが共有されやすくなると考えている」と、研究グループは述べている。
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