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IgAの欠損で回腸特異的に炎症が自然発症することをマウスで証明-東京医歯大ほか

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2021年05月31日 AM11:25

腸管のIgAは病原微生物の排除に重要だとわかっていたが、詳細は不明だった

東京医科歯科大学は5月27日、免疫グロブリンA(IgA)の変異マウスを作製し、IgA欠損により回腸炎が自然発症することを突き止めたと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所未病制御学の安達貴弘准教授と同大学院医歯学総合研究科消化管先端治療学講座の永石宇司准教授の研究グループと、高等研究院の渡辺守特別栄誉教授、烏山一特別栄誉教授、東京医科歯科大学難治疾患研究所分子神経科学分野およびエピジェネティクス分野、同大学院医歯学総合研究科免疫アレルギー学分野、、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)、イチビキ株式会社、ハーバード大学との共同研究グループによるもの。研究成果は、「Gut」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

炎症性腸疾患()は世界中で患者数が急増しており、若年者に多く発症すること、再燃寛解を繰り返すこと、生涯にわたってステロイドや免疫調節薬、あるいは生物学的製剤など高額な治療を余儀なくされること、発がんのリスクが高まることなどから、社会的あるいは医療経済的にも問題となっている。そのため、厚生労働省により難病指定されており、その病態解明や新規治療法の開発は急務となっている。なかでも、IBDの1つであるクローン病は、全消化管に発症し、特に回腸をはじめとした小腸に好発することから、患者の日常生活に大きく影響する。しかし、大腸炎の動物モデルはこれまで多く開発されてきたものの、小腸炎のモデルは皆無に等しく、また小腸粘膜における免疫応答メカニズムの詳細もいまだベールに隠されているため、クローン病の研究は現在も大きく停滞している。

一方、IgAは生体内で最も多く産生される抗体であり、腸管粘液、唾液、涙、乳汁などに分泌されている。なかでも、腸管では最も多く発現し、粘膜の最前線で微生物と対峙する粘膜バリアの構成要素の1つであることが知られている。ヒトの免疫不全症としてはこのIgAの欠損症が最も頻度の高い疾患で、アレルギー、自己免疫疾患、自閉症との相関も指摘されているが、無症状の人が比較的多いという報告もあり、生体内におけるその重要性はこれまで明らかになっていない。また、腸管のIgAは病原微生物の排除に重要であることが知られており、IBDにおいても指摘されているが、健常者にも共生している腸内細菌叢との関連については、これまで詳細が知られていなかった。

IgAは腸内細菌叢の制御にも深く関わり、特に回腸粘膜における免疫恒常性の維持に重要

そこで研究グループは今回、腸管粘膜の恒常性維持におけるIgAの影響を解明することを目的として、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を応用してIgA遺伝子座のさまざまな変異マウスを複数系統(種類)作製し、これらの中からIgAの細胞内領域の遺伝子部位に欠失を持つマウス(IgAtm/tm)とIgHα鎖の全定常領域を欠いたIgA欠損マウス(IgA-/-)の2系統について解析を進めた。特に腸管粘膜の恒常性は果たして破綻しているのか否かに焦点をあて、全消化管の病理組織学的な解析、腸内細菌叢や粘膜内の免疫細胞(リンパ球)の解析、また、それらリンパ球のサイトカイン産生および活性度を評価した。

その結果、病理解析では消化管のほとんどの部位で正常マウスとIgA欠損マウスに差がみられなかったものの、IgA欠損マウスの回腸粘膜では週齢が若い段階から炎症が自然に誘発されていることが見出された。大腸や空腸に比べてこの回腸では、セグメント細菌の増加をはじめ腸内細菌叢の組成が最も歪んでおり、ヒトの自閉症との相関が指摘される腸内細菌も増加していた(近年、血清中のIgAの濃度は自閉症とも関連すると報告されている)。回腸の粘膜内ではCD4+T細胞が有意に増加しており、インターフェロン-γおよびインターロイキン-17といった炎症を惹起するサイトカインの産生が亢進していた。さらに安達准教授によって独自に構築された細胞内Ca2+シグナリングを可視化できるCa2+バイオセンサーYellow Cameleon3.60(YC3.60)を用いた生体内イメージング解析では、IgA-/-マウスの小腸粘膜内パイエル板のB細胞におけるCa2+濃度が亢進していることが観察され、回腸粘膜における細胞レベルの免疫反応が増強していることが示唆された。一方、IgAtm/tmマウスはいずれの解析でもほぼ正常であったことから、IgGやIgEでは細胞内領域の重要性が明らかになっていたが、IgAのその配列はIgAの機能に必ずしも重要ではないと考えられた。以上の知見から、病原微生物ばかりでなく腸内細菌叢の制御にもIgAは深く関わり、特に回腸粘膜における免疫恒常性の維持に重要な役割を果たしていたことが明らかにされた。

IgAがクローン病の新たな治療標的になり得る可能性

ヒトのIgA欠損症の病態は不明な点が多く、その臨床的な重要性はこれまで明確にされていなかった。しかし、今回の研究で樹立された動物モデルの解析を通じて、小腸粘膜の恒常性維持においてIgAに重要な働きがあり、その欠損によって回腸に限定された炎症が実際に誘導されることが世界に先駆けて明らかにされた。この事実は、IgAの欠損がクローン病をはじめとするIBDのリスク要因になり得ること、そして新規の治療標的になり得ることを示唆している。

また同研究では、これまでほぼ皆無であった小腸炎(回腸炎)のモデルが確立されたこと自体にも免疫学的、そして消化器病学的に大きな意義がある。つまり第1に、これまで腸管粘膜における免疫応答の解析は大腸に限定されていたが、同研究で確立された解析手段や回腸炎モデルを通じて、今後は小腸独特の免疫反応を詳細に解析することが可能となったことにある。そして第2に、これまで難解であったクローン病をはじめとするIBDの病態解析が本研究成果によって今後は飛躍的に発展し、新規の診断・治療法の開発に大きく貢献できることが期待される。

「さらに、本研究における腸内細菌叢の解析結果はIBDにとどまらず、アレルギー、自己免疫疾患、自閉症などのIgA関連疾患の病因・病態解明の糸口ともなることが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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