AI・機械学習モデルで、健康に関する改善行動を具体的に示すことはできていない
京都大学は5月28日、AI技術の一種である機械学習と階層ベイズモデリングを組み合わせることで、個人の健康診断データに基づき、個人ごとに最適で効果的な健康改善プランを提案するAIの開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の奥野恭史教授、小島諒介特定講師、中村和貴博士課程学生らの研究グループと、弘前大学COI研究推進機構、協和発酵バイオ株式会社、弘前大学大学院医学研究科との共同研究によるもの。研究成果は、「Nature Communications」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
医学的に正しく、かつ患者が受け入れられる臨床意思決定を行うことは治療効果を高めることにつながる。近年注目されている個別化医療においては、多様な個人の健康特性や嗜好に基づき、患者が受け入れられる健康改善プランを立てることが重要になってきている。しかし、このような健康改善プランの提案は現在、臨床医の経験に主に依存しており、データ主導の方法で臨床医をサポートすることに課題があった。
近年、医療ヘルスケア分野においても、AI・機械学習技術を利用して予測モデルを作成することにより、患者の包括的な情報に基づき診断支援や将来の疾病予測を行うことが可能になってきた。このようなAI・機械学習モデルは高性能な予測が可能である反面、その予測過程がブラックボックスという問題がある。そのため、個人の健康に関してAI・機械学習モデルにより病気の発症リスクが高いと予測されても、どのような改善行動を取るべきかについて具体的なプランを示すことはできていなかった。
機械学習モデルに加え、階層ベイズモデルを用いて健康改善プランを提案するAIを開発
健康改善プランは、予測結果の改善効果が大きく、かつ、人間にとって「実行しやすい」内容である必要がある。例えば、現実には生体がとり得ない検査値の組み合わせを通る改善プランは実行不可能であり、実際に健診データに存在するような検査値の組み合わせを経由する改善プランの方が好ましいと考えられる。また、健康改善のために、運動、飲酒制限、食習慣などに関して、全ての項目に対して介入を行うのではなく、項目を絞っても効率的な改善が可能であれば、患者にとっての受容性は高くなると考えられる。
そこで研究グループは、「実行しやすさ」を考慮しつつ、より効果的な健康改善プランを提案するAIを開発した。具体的には、「実行しやすさ」を評価するために、階層ベイズモデルにより実際のデータ分布のパターンを学習。通常の機械学習モデルに加え、この階層ベイズモデルを用いることで、現実にとりうる検査値の組み合わせを通った健康改善プランの提案を可能とした。
実データで有用性を確認、患者にとっての「実行しやすさ」も実証
開発したAIを、弘前大学COIにおける岩木健康増進プロジェクトにより取得された健診ビッグデータに対して適用し、高血圧または慢性腎臓病リスクのある被験者に対して効果的な改善プランを立案可能であるか評価を行った。その結果、開発したAIが個人の健康状態に応じて個別の改善プランを立案可能であることが確認された。また、開発したAIの改善プランは、同じ改善効果を得るための他のプランと比較して「実行しやすい」ものであることが実証された。以上の成果は、開発したAIが医療分野における意思決定に貢献し、臨床医に対してこれまで得られなかった洞察を与える可能性があることを示している。
今後、実用化に向けたAIの有効性の前向き検証を
今後の実用化に向け、今回の研究で開発したAIの有効性の前向き検証が必要だ。「今日、個別化医療の重要性は高まっており、蓄積された健康データから有用な知見を得ることが期待されている。本研究はそれに対する全く新しいアプローチを提案するものであり、今後の医療分野でのデータ活用の加速に大きく貢献すると期待できる」と、研究グループは述べている。
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