抗CD20抗体製剤「リツキシマブ」、先行研究で皮膚効果改善の可能性示唆
東京大学医学部附属病院(東大病院)は5月27日、全身性強皮症に対する多施設共同医師主導治験を行い、リツキシマブの投与によるB細胞除去療法が強皮症の皮膚硬化に対して有効であることを世界に先駈けて証明したと発表した。これは、東大病院皮膚科の佐藤伸一教授、吉崎歩講師(治験責任医師・調整医師)、江畑慧助教らの研究グループによるもの。同治験の結果は、「The Lancet Rheumatology」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
全身性強皮症(以下、強皮症)は、皮膚をはじめ、内臓を含めた全身に、線維化病変と血管障害を来す、膠原病に属する自己免疫疾患。国内では、少なくとも2万人以上が罹患していると推測されており、診断基準を満たさない軽症例を含めると 4万人以上の患者が存在すると考えられている。病気の原因は不明で、根本的な治療は存在せず、厚生労働省が定める指定難病に認定されている。未治療のまま放置すると、症状がしばしば進行し、特に肺線維症と呼ばれる肺に生じた線維化病変は、ときとして致命的となる。
佐藤伸一教授らは長年、強皮症の発症と進行には、白血球の一種であるB細胞が関与していることを多くの研究によって示してきた。そして、B細胞が必要以上に活発に働いてしまうことが強皮症を引き起こしている可能性を世界に先駈けて明らかにした成果を受け、B細胞を除去する作用を持つ抗CD20抗体製剤「リツキシマブ」を用いた多数の臨床研究が、多くの施設で行われてきた。東大病院皮膚科においても、吉崎歩講師らを中心に2012年から2017年にかけて、強皮症に罹患し肺線維症を合併した14人に対して、倫理審査委員会の承認のもとリツキシマブの投与が行われた。その結果、リツキシマブは従来の治療法であるエンドキサンパルス療法よりも、肺線維症と皮膚に生じた線維化病変である皮膚硬化を改善させる可能性が示された。この結果から、リツキシマブは強皮症に対する新たな治療薬になる可能性が示唆された。
国内4施設56人の患者対象にプラセボ対照二重盲検並行群間比較試験実施
今回、研究グループは、強皮症に対するB細胞除去療法の有効性を証明するために、強皮症に対するリツキシマブのプラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を実施した。この治験は、吉崎歩講師を責任医師・調整医師とする多施設共同医師主導治験として行われた。また、同治験は国内の4施設で行われ、合計56人の強皮症患者が参加した。
リツキシマブはる皮膚硬化と肺線維症に対し優れた有効性
治験薬(リツキシマブもしくはプラセボ)の投与から24週後の時点において、リツキシマブはプラセボと比較して、主要評価項目として設定された皮膚硬化の指標である修正ロドナンスキンスコアと、副次評価項目として設定された肺線維症の指標である%努力性肺活量を有意に改善した。この治験は、過去に行われた臨床研究の結果から、主要評価項目である皮膚硬化に対するリツキシマブの有効性を治験に先立って統計学的に予測し、これを検証する形で行われた検証的治験だった。つまり、今回の治験結果により、リツキシマブは強皮症の皮膚硬化に対して有効であることが科学的に証明されたことになるという。加えて、副次評価項目の結果から、リツキシマブは強皮症の肺線維症に対しても有効であることが示唆された。
皮膚硬化に対して有効な薬剤自体を見出した世界初の成果、現在薬事承認申請中
これまで、皮膚硬化を主要評価項目として行われた検証的治験の中で、有効性を示すことができた研究は存在しなかった。したがって、今回の治験は強皮症の皮膚硬化に対するリツキシマブの有効性を証明しただけでなく、世界で初めて皮膚硬化に対して有効な薬剤自体を見出した先駆的な研究といえる。強皮症において皮膚硬化は最も主要な症状で、ほぼ全例に病初期から生じる。
さらに東大病院皮膚科に通院する1,000人を超える強皮症患者のうち、詳細な情報が入手可能であった198人の解析からは、皮膚硬化の重症度は肺線維症の重症度と相関し、同時に皮膚硬化の重症化は肺線維症の進行をもたらすことが示唆されている。つまり、皮膚硬化に対して有効な治療は、肺線維症の進行防止にも有効であることが示唆され、リツキシマブは強皮症の症状を広く抑制することが予測される。
現在、リツキシマブの製造販売元から、PMDAへ承認申請が行われている。研究グループは、「承認後には強皮症に対する保険適用の新しい治療選択肢が生まれ、強皮症患者にとって大きな福音となることが期待される」と、述べている。
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