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食道扁平上皮がんの新たな治療標的「PDHX」を同定-東京医歯大

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2021年05月27日 AM11:00

進行ESCCは予後不良、治療標的となる代謝関連分子を探索

東京医科歯科大学は5月26日、食道扁平上皮がんにおける新たな治療標的として、代謝関連分子「(pyruvate dehydrogenase [PDH] component X)」を同定したと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所・分子細胞遺伝分野の井上純准教授、岸川正大大学院生、稲澤譲治教授らの研究グループと、同大頭頸部外科学分野の朝蔭孝宏教授との共同研究によるもの。研究成果は、「Cancer Science」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

(Esophageal squamous cell carcinoma;ESCC)は、日本を含むアジア諸国で罹患率が高いがん種であり、リンパ節に転移を起こしやすく、極めて予後不良な疾患である。これまでに、外科的切除、化学療法、放射線療法、およびそれらの治療法を組み合わせた集学的治療法の開発が発展してきたが、依然として、進行がんの予後は不良であり、新しい治療戦略の開発が求められている。

一方、細胞内では、グルコース代謝やミトコンドリアTCA回路を含めたさまざまな代謝経路がネットワークを構築することにより、物質の合成や分解、およびエネルギー産生といった細胞内代謝が厳密に制御されている。しかし、がん細胞では、がん遺伝子や代謝関連遺伝子の遺伝子異常を介して、細胞増殖・生存に適した代謝経路ネットワークが再構築されていることが知られている。そのようながん細胞特有の代謝経路は、治療標的として有効になると考えられており、実際に、さまざまな代謝標的治療薬が開発され、それらの実用化を目指した臨床試験が盛んに行われている。そして今回、ESCCの治療標的となる代謝関連分子を特定することを目的とした研究が行われた。

PDHXはCD44と隣接して座位、マウスにPDH阻害剤CPI-613投与で腫瘍増殖抑制

研究グループは初めに、10種の代謝経路に関連する224遺伝子に対して、各遺伝子の発現を抑制するsiRNAライブラリーを作成した。各siRNAをESCC細胞株へ導入した結果、43種の代謝関連遺伝子において、細胞増殖の抑制が認められた。それらの遺伝子群の中から、ESCC症例がん部において、非がん部と比較して、高頻度に発現が亢進する遺伝子の1つとして、PDHXを同定した。

PDHXは、ピルビン酸からアセチルCoAへの変換を触媒するPDH複合体の構成因子の1つとして知られている。PDHXの発現は、PDH活性および細胞内エネルギーとしてのATP産生に寄与することで、がん幹細胞を含むスフェア形成および腫瘍増殖に必須であることがわかった。また、ESCC組織切片を用いた免疫染色により、腫瘍組織内に存在するがん幹細胞マーカーCD44陽性細胞において、PDHX発現の活性化が認められた。さらに、ヒト11番染色体11p13領域において、PDHXとCD44は隣接して座位しており、共遺伝子増幅によって発現が亢進し、協調的に機能することでがん幹細胞の増殖に寄与することを見出した。そして、PDHXを高発現するESCC細胞株を用いた担がんマウスモデルにおいて、PDH阻害剤CPI-613の投与により、腫瘍増殖が顕著に抑制されることが明らかとなった。

CPI-613に対するコンパニオン診断法の開発基盤に

今回の研究により、PDHXの発現は、PDH活性および細胞内エネルギー産生を介して、がん幹細胞の増殖および腫瘍増殖に寄与しており、ESCCの新たな治療標的となることが明らかとなった。現在、さまざまながん種を対象として、PDH阻害剤CPI-613の臨床試験が行われており、その実用化が期待されている。しかし、CPI-613に対する有効患者を層別化するコンパニオン診断法は確立されていない。「研究成果は、腫瘍検体でのPDHXの高発現または遺伝子増幅の検出によるCPI-613適応患者層別化のコンパニオン診断法の開発において、有用な分子基盤となることが期待される」と、研究グループは述べている。

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