医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > COVID-19治療薬の効果判定評価系を確立-慶大ほか

COVID-19治療薬の効果判定評価系を確立-慶大ほか

読了時間:約 2分57秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年05月26日 PM12:30

先行研究で開発したオルガノイド培養技術を応用

慶應義塾大学は5月20日、新型コロナウイルスの主要な感染巣であるヒトの肺胞の細胞を、オルガノイド培養技術を用いて効率的に増殖させる技術を開発し、新型コロナウイルス感染症()治療薬の効果判定を行う評価系を確立することに成功したと発表した。この研究は、同大医学部坂口光洋記念講座(オルガノイド医学)の佐藤俊朗教授、杉本真也助教、同内科学(呼吸器)教室の胡谷俊樹特任助教、安田浩之専任講師、北里大学大村智記念研究所(ウイルス感染制御学)の片山和彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

COVID-19は、日本を含む全世界において終息の目処は未だにたっていない。新たな抗ウイルス薬の開発が進められているが、有望な薬剤の開発には至っていない。COVID-19の新規治療薬の開発が難しい要因の一つとして、新型コロナウイルスに対する抗ウイルス薬の効果を体外で判定する方法が確立されていないことが挙げられる。特に、新型コロナウイルスは肺炎による重度の呼吸不全を引き起こすため、酸素の交換を司る肺胞細胞における感染の評価が重要だが、治療薬の効果判定に使われてきた細胞はアフリカミドリザルの腎臓やヒトの大腸に由来することが多く、ヒトの肺胞を用いた研究はなかった。これまでヒトの肺胞細胞を長期に培養する方法は確立されておらず、このことが治療薬の効果判定を新型コロナウイルスの直接の感染巣である肺胞を用いて評価する上での障壁となっていた。

ヒト組織由来の正常肺胞細胞は、シャーレの上で培養する際に、増殖に必要な因子を供給する線維芽細胞との共培養が必須とこれまで考えられていた。しかし、この方法では短期的な体外培養しか行うことができないことに加え、線維芽細胞がシャーレ上に含まれるため肺胞細胞特異的な機能評価を行うことが困難だった。

研究グループは、先行研究で開発したオルガノイド培養技術を応用し、線維芽細胞を用いずに肺胞細胞を立体的なミニチュア臓器としてシャーレの上で効率的に培養することを試みた。さらに、この方法を用いて培養した肺胞細胞に新型コロナウイルスを感染させることで、COVID-19に対する治療薬の効果判定を行う評価系ができるのではないかと考え、研究を実施した。

ヒト肺胞細胞、効率的な培養法を確立

慶應義塾大学医学部の佐藤俊朗教授、杉本真也助教、胡谷俊樹特任助教らの研究グループは、患者肺組織に対して物理的破砕、酵素処理を行った後、蛍光活性化セルソーティング(FACS)という技術を用いてII型肺胞上皮を選択的に採取。これらを、オルガノイド培養技術を応用した特定の培養液で培養したところ、肺胞細胞の3次元培養を行うことに成功し、肺胞スフェロイドと命名した。

さらに、それぞれの構成因子を除いた培養液での検討を行うことにより、培養液組成の中の重要な因子の特定を試みた。その結果、肺胞細胞を培養するためにはWnt経路活性化因子およびERK/AKT経路活性化因子が必須であることを突き止めたという。

しかし、この方法では肺胞細胞の増殖速度は遅く、新型コロナウイルス感染症などの感染実験、治療薬評価を行うには細胞を増やすのに時間がかかる制約があった。この問題を解決すべく、約10種類の増殖因子のスクリーニングを行った結果、NRG1という因子が肺胞の増殖に重要な役割を果たしており、これを培養液に添加することで約2~3倍の速さでの増殖が可能となることがわかった。

ヒト臨床の反映を確認

続いて、研究グループは、肺胞細胞に対して新型コロナウイルスを直接感染させ、ウイルスが肺胞細胞(肺胞スフェロイド)に持続的に感染すること、ヒト体内での感染応答と同じインターフェロン反応がシャーレ上でも起こることを実証した。

最後にこの感染モデルを用いて、新型コロナウイルスに感染した肺胞細胞に対して治療薬を投与し、経時的にウイルス量を測定することで、治療効果を判定する方法を確立。この方法では、以前は効果が期待されながらも大規模臨床試験の結果効果が認められないという結論に至ったロピナビルではウイルスの増殖を抑えられなかった一方、現在では臨床現場でも用いられているレムデシビルが肺胞において抗ウイルス効果を発揮することを確認でき、実際のヒトの臨床を反映していることが明らかとなった。

さまざまな呼吸器感染症の病態解明・治療薬開発に期待

同研究は、ヒト正常肺胞細胞の培養方法の確立により、肺胞における新型コロナウイルス感染状態を体外で再現し、治療薬の効果を直接的に確認することができる方法を開発したものだ。

今後は、新型コロナウイルスをはじめとする、肺炎を起こすさまざまな呼吸器感染症の病態解明や治療薬開発に役立つことが期待される、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大