がん免疫治療薬による下垂体副作用の発症を予測する指標は?
名古屋大学は5月20日、がん免疫治療薬の免疫チェックポイント阻害薬による下垂体副作用の発生を予測する指標を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院糖尿病・内分泌内科の小林朋子病院助教、岩間信太郎講師、同大医学系研究科糖尿病・内分泌内科学の有馬寛教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal for ImmunoTherapy of Cancer」に掲載されている。
画像はリリースより
免疫チェックポイント阻害薬は、がんに対する免疫抑制を解除することで抗がん作用を示すがん免疫治療薬。日本では悪性黒色腫、肺がん、腎がん、頭頸部がん、ホジキンリンパ腫、胃がん、尿路上皮がん、乳がん等で近年保険が適用され、使用が拡大している。一方、免疫反応の活性化が自己の臓器で発生した際の副作用(irAEs)が問題となっている。irAEsは肺、消化管、皮膚、神経・筋、内分泌器官など全身のさまざまな部位で認められる。このうち、下垂体の副作用(下垂体機能低下症)は重篤で死亡例も報告されている。
研究グループは、免疫チェックポイント阻害薬による下垂体副作用の特徴および生命予後を明らかにするため、名古屋大学医学部附属病院で2015年11月2日以降に免疫チェックポイント阻害薬を使用した悪性黒色腫および非小細胞肺がん患者を対象とした研究を行い、下垂体の副作用はACTH単独欠損症(IAD)と下垂体炎の2つの臨床的特徴を呈すること、適切に診断し治療すれば全生存率が延長することを報告した。しかし、この下垂体副作用の発症を予測する指標は明らかになっていなかった。
IADではHLA-Cw12、-DR15、-DQ7、-DPw9、下垂体炎ではHLA-Cw12、-DR15を高頻度で確認
そこで今回、この指標を同定するため、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた患者のうち、下垂体副作用を発症した22例(IAD17例、下垂体炎5例)と発症しなかった40例の血中抗下垂体抗体とHLAを解析した。
治療前の抗下垂体抗体陽性率はIADで17例中11例(64.7%)と、発症しなかった40例中1例(2.5%)と比して有意に高く、下垂体炎では治療前の抗下垂体抗体は全例で陰性だった。一方、発症時の抗下垂体抗体はIAD17例中15例(88.2%)で、下垂体炎5例中4例(80.0%)で陽性だった。下垂体炎のうち、発症の2~3週間前の血液検体が得られた4例のうち3例(75.0%)において、下垂体炎発症前に抗下垂体抗体が陽転化していることが明らかとなった。この62例においてHLA解析を行ったところ、IADではHLA-Cw12、-DR15、-DQ7、-DPw9型の、下垂体炎ではHLA-Cw12、-DR15型の保有率が、発症しなかった症例に比し、有意に高頻度で認められた。
これらの結果から、抗下垂体抗体およびHLAが下垂体副作用の高リスク者を判別する指標となる可能性が示唆された。同結果は、現在急速に拡大している免疫チェックポイント阻害薬の副作用マネジメントにおいて極めて重要と考えられる。
免疫チェックポイント阻害薬の安全な使用法確立に期待
下垂体副作用はACTH分泌低下症が必発であるため、対処が遅れれば致死的となり得る重篤な有害事象であり、免疫チェックポイント阻害薬使用時にはその病態や対処法を十分理解し、早期に診断することが重要だ。今回の研究により、抗下垂体抗体およびHLAが下垂体副作用を予測する指標となる可能性が示唆された。今後、抗下垂体抗体が認識している自己抗原を同定することにより、抗下垂体抗体を定量的に測定可能なELISA法などが開発できれば、実臨床において広く抗下垂体抗体を測定することできる。
「さらに、抗下垂体抗体とHLAを組み合わせることにより、下垂体副作用の発症を治療前から予測するシステムを構築することで、免疫チェックポイント阻害薬の安全使用法の確立に寄与できると考えている」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・名古屋大学 プレスリリース