過去研究から、RNAに結合するタンパク質PSFに着目
東京都健康長寿医療センターは5月19日、ホルモン療法が効かなくなった前立腺がんおよび乳がんに対する新しい治療薬候補を発見したと発表した。この研究は、同センター老化機構研究チームシステム加齢医学研究の井上聡研究部長、高山賢一専門副部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Research」に掲載されている。
画像はリリースより
前立腺がんおよび乳がんは、欧米や日本においてそれぞれ男性および女性がかかるがん種として最も患者数が多く、健康長寿を損ねることで有名だ。これらのがんに対してはおおむね男性ホルモンや女性ホルモン作用を抑えるホルモン療法が行われる。しかし、治療を継続すると薬剤や各種療法が効かなくなり、再発、難治化して死に至り、国内でそれぞれ1万人以上の死亡者数となっていることが大きな課題となっている。
研究グループはこれまでにホルモン療法の効かない前立腺がん細胞においてはRNAに結合するタンパク質PSFが、がん細胞内での遺伝子の発現や成熟を制御していることを見出していた。また、ホルモン療法が効かなくなった乳がんにおいても重要な働きをしていることも報告している。
PSFのがん細胞での機能を抑える小分子を同定、ホルモン受容体の発現も抑制
今回の研究では、これらのがんの組織において鍵となるタンパク質PSFに結合し得る小分子化合物をケミカルアレイという手法により広く探索した。その結果、PSFのがん細胞での機能を抑える働きをする小分子を2つ同定し、化学構造を調整することでさらに効果的に働くと予測される分子を見出した。
また、この小分子を治療薬として使用することで、PSFの増加しているホルモン療法の効かないがん細胞の増殖や実験動物内での腫瘍の増殖を抑える働きがあることを示した。さらに細胞や腫瘍内でPSFの標的となっているがんを促進する遺伝子の発現やホルモン療法の標的となる受容体の発現も抑制することを見出した。
従来の薬剤では効果のないがんに対する治療法の確立に寄与する可能性
今回の治療薬候補分子の同定によりホルモン療法が効かなくなった前立腺がんおよび乳がんに対する新しい治療法の開発につながる可能性がある。特にこの薬剤候補分子はRNA結合タンパク質という、これまでにない種類の分子を標的とした薬剤となるため従来の薬剤では効果のないがんに対する治療法の確立に寄与することが考えられる。
研究グループはすでに国際特許を申請しており、「今後小分子の化学構造に改良を重ねることでさらに効果を最適化し、生体内での安全性が検証されれば実際の臨床の現場でのがん治療に応用可能と考えている」と、述べている。
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・東京都健康長寿医療センター プレスリリース