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もやもや病のリスク遺伝子「RNF213」を解析、遺伝的特徴と拡散経路を推定-東大ほか

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2021年05月24日 AM11:45

もやもや病の多様な症状は環境要因によるものか、R4810Kとは異なる変異の影響か?

東京大学は5月20日、もやもや病患者のRNF213遺伝子の配列をもとに集団遺伝学解析を実施し、遺伝的特徴と拡散経路を推定したと発表した。この研究は、同大大学院理学系研究科の太田博樹教授と小金渕佳江助教らを中心とする共同研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Human Genetics」に掲載されている。


画像はリリースより

脳血管障害の1つであるもやもや病では、内頚動脈という脳内の太い血管の終末部分が細くなるため、血液不足が起こりやすくなる。それを補うために、新たに血管網が形成される。この血管が霧のように見えるため、日本人医師により「もやもや病」と命名された。もやもや病患者の有病率は、世界中の他の地域に比べて東アジア人で多いことが報告されている。日本では厚生労働省の特定疾患に認定されており、患者数は約1万5,000人である。もやもや病の病型は多岐に渡り、脳虚血のほか、脳梗塞や脳出血がみられることから、命にかかわる疾患と言える。また、同じ家系内で発症した例が全体の約10%の割合でみられることから、もやもや病の発症には遺伝要因が関係すると考えられており、疾患に関連するゲノム領域が複数報告されてきた。2011年には2つの日本の研究チームが、リスク変異をもつ遺伝子RNF213を独立に報告した。

RNF213遺伝子はこれまでに、血管形成に関連することや脂肪代謝の制御因子であることが明らかになっている。もやもや病のリスク変異は、RNF213タンパク質の4,810番目のアミノ酸をアルギニンからリシンに変える一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism;SNP)であり、R4810Kと表記される。このリスク変異R4810Kは、ほぼ東アジアにしか存在しないことが知られている。非もやもや病患者でこの変異を持つ人は、東アジアの各地域で約1%と低頻度である一方、患者のリスク変異頻度は日本が約50%と最も高く、韓国が約40%、中国が約10%と続く。また、R4810Kを持つ人のもやもや病発症リスクは、特に日本で高いことが報告されている。これらのことから、もやもや病の症状は多岐に渡る一方で、1つの遺伝子のリスク変異が強い影響を及ぼしているという状況にあると言える。そのため、多様な症状は環境要因によるのか、それともR4810Kとは異なる別の変異が影響を及ぼしている可能性があるのか、議論されていた。

リスク変異R4810Kは東アジアで出現し、現在まで存在し続けている可能性

そこで研究グループは今回、もやもや病患者および非もやもや病患者のRNF213遺伝子配列の特徴を解明するとともに、リスク変異の出現時期と東アジアにおける拡散過程を検討した。

まず、非もやもや病患者におけるRNF213遺伝子の配列の特徴を明らかにするために、公共データベースに登録されている4つの集団から計414人(アフリカ人108人、ヨーロッパ人99人、中国人103人、日本人104人)のゲノム配列を用いて、ハプロタイプを推定。検出されたハプロタイプの種類数は非アフリカ人よりもアフリカ人で多かった。これはアフリカでのRNF213遺伝子の多様性が高いことを意味するという。この結果は、現生人類(ホモ・サピエンス)がアフリカで誕生し、アフリカから世界各地へと拡散した人類史で説明できる。また、公共データベースに含まれる日本人ゲノムには、リスク変異を含む遺伝子配列がごく少数存在することが明らかになった。

次に、北里大学病院に入院・通院していたもやもや病患者におけるRNF213遺伝子配列の特徴を明らかにするため、日本人患者24人のRNF213遺伝子の配列を用いて系統樹を作成した。比較対照として、先のハプロタイプ解析で用いた公共データベースの日本人104人の遺伝子配列も用いた。その結果、リスク変異を持つ配列のほとんどは、系統樹中の1つ場所に固まって位置する(クラスターを形成する)ことが明らかになった。

このリスク変異配列のクラスターに注目すると、もやもや病患者由来の配列20本のうち8割が同一配列だった。つまり、今回の解析で対象とした患者は異なる家系だったにも関わらず、リスク変異配列のうち大半が同一であった。これは、リスク変異R4810Kがヒトの歴史の中で比較的最近に東アジアで出現し、現在まで存在し続けていることを示唆するという。

もやもや病の多様な病態は、遺伝子の変異よりも環境要因の影響によるものか

最後に、リスク変異R4810Kの出現時期を、変異を含むRNF213遺伝子配列に基づいて推定したところ、リスク変異は今からおよそ14,500~5,100年前に出現したと推定された。この年代は、日本列島では縄文時代に相当する。約3,000年前には、東アジア大陸から日本列島への大規模なヒトの移住があったことが人類学や考古学研究から明らかになっている。つまり、この移住に伴ってリスク変異が日本列島に拡散したことが示唆された。

患者のRNF213遺伝子配列がほぼ同一であったことから、もやもや病の多様な病態は、この遺伝子の変異よりも環境要因の影響によるものであることを示唆する。環境要因の影響は以前より指摘されてきたが、リスク遺伝子を配列レベルで調査しその指摘を支持したのは本研究が初となる。また、もやもや病に合併することが報告されている感染症や炎症性疾患、自己免疫疾患、甲状腺機能異常、脂質代謝異常が、もやもや病発症や増悪の引き金、すなわち環境要因となることが考えられている。それらの関係性は今後の詳細な検討が必要だ。また、もやもや病リスク変異の出現は、東アジア人全体の祖先集団から日本列島に移住した縄文人が分岐した後に、大陸部にとどまった集団で起こったと考えられる。その変異は、およそ3,000年前に始まった弥生時代以降の渡来人とともに日本列島へやってきた可能性がある。「本成果は、疾患のリスク変異を集団遺伝学的に分析することで、もやもや病の病態の多様性の理解に貢献するものである」と研究グループは述べている。

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