皮膚の遺伝性角化症、一部で自然治癒するメカニズムは?
北海道大学は5月20日、皮膚の遺伝性角化症の1つである毛孔性紅色粃糠疹5型において、病気の原因である遺伝子異常が、体細胞組換えという仕組みにより皮膚の一部から消失して自然に治癒することを世界で初めて発見し、さらにそのメカニズムの一端を解明したと発表した。この研究は、北海道大学大学院医学研究院皮膚科学教室の宮内俊成助教と乃村俊史講師(研究当時。現、筑波大学医学医療系皮膚科教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Human Genetics」にオンラインで先行掲載されている。
画像はリリースより
遺伝子異常(変異)により発症する遺伝病では一般的に根治療法がない。一方で、一部の遺伝病では患者の体の一部で病原遺伝子異常が消失し、正常化した細胞や組織が点在する「自然治癒現象」が知られている。これまでに約50種類の病気でこの自然治癒現象が報告されているが、北海道大学皮膚科学教室の研究グループでもこれまでに複数の遺伝性皮膚疾患でこの自然治癒現象を発見し、報告してきた。それらに共通していたのは病気につながる遺伝子異常が「体細胞組換え」というステップを介して消失しているという点だった。このことから、自然治癒に至る過程で体細胞組換えが重要な役割を担っていることがうかがえる。
根本的な治療法がない遺伝病に対して自然に治る現象というのは非常に魅力的で、この現象に至る過程を明らかにする意義は大きいと考えられる。しかし、世界中で自然治癒現象を生じた病気の解析が行われているものの、なぜ自然に治癒するのか、あるいは、なぜ体細胞組換えが起こるのかという疑問点に関しては研究が進んでおらず、謎に包まれたままだった。
患者2人の皮膚を組織学的・CARD14遺伝子の分子生物学的に解析
今回研究の対象となったのはCARD14遺伝子の変異で発症する毛孔性紅色粃糠疹5型という疾患。生まれつき全身の皮膚が赤くガサガサになり、強いかゆみを生じる。また皮膚の硬さ(角化)ゆえに指が曲がって伸ばせなくなるなどの症状も伴う。遺伝性角化症のひとつで、外見上の問題を含め、日常生活に大きな支障をきたすが、他の遺伝病同様に有効な治療法がなく、対症療法を行うことしかできない。
今回の研究では、まず毛孔性紅色粃糠疹5型の患者2人に関する皮膚の解析を行った。両者とも全身が赤くガサガサだが、その中に正常に見える皮膚領域が複数か所あった。この領域から皮膚を採取し、組織学的な評価を行うと同時に、CARD14遺伝子に関する分子生物学的解析を行った。さらに正常なCARD14、あるいは異常なCARD14 を産生する細胞をそれぞれ作製し、その細胞の解析を通じて変異消失に至るメカニズムを探った。この解析ではDNAの損傷やその修復、あるいはDNA複製や複製が阻害された時の対処法などといった点に注目して評価を行った。
正常に見える皮膚領域は組織学的に正常化、CARD14変異が体細胞組換えで消失
解析の結果、患者2人で見られた正常に見える皮膚領域は組織学的にも正常化していた。さらにその領域の表皮から抽出したDNAを調べると体細胞組換えによりCARD14変異が消失していた。この結果から、毛孔性紅色粃糠疹5型でも自然治癒現象が生じうることが世界で初めて証明された。
CARD14変異が体細胞組換えを促すメカニズムを探るためにCARD14を産生する細胞を用いて解析を進めると、異常なCARD14が存在してもDNAが直接損傷を受けたり、その修復過程が変化したりするわけではないと判明。一方で、DNA複製に注目すると、CARD14の変異に伴い、DNA複製が何らかの外的要因により阻害された時の反応、あるいは修復経路が変化することが確認された。この変化は患者で見られる体細胞組換えにつながる変化であり、自然治癒現象の背景としてDNA複製やその調節機構が大きく関わることが明らかとなった。
自然治癒に至るメカニズム解明は、全遺伝病の治療法開発につながる可能性
今回の研究は、自然治癒現象が起こりうる病気を新たに発見したとともに、なぜ自然に治ってくるのかという点に関しても踏み込むことができたもの。研究グループは、「これまでにたくさんの病気の解析を通じて「自然治癒現象の発見と蓄積」という面が積み重ねられてきたが、今回の研究を皮切りに、今後「自然治癒現象に至るメカニズム」の側面がより詳細に解明されることが望まれる。そしてそのメカニズムの解明は、皮膚の病気に限らず、遺伝病全般に通じる新規治療の開発に応用できる可能性がある」と、述べている。
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