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遺伝性難聴患者由来iPS細胞を用いて病態の再現に成功、薬剤探索に有用-順大ほか

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2021年05月20日 AM11:45

GJB2変異型難聴患者由来のiPS細胞による病態の再現には成功していなかった

順天堂大学は5月18日、遺伝性難聴の中で最も頻度の高いGJB2(コネキシン26;)変異型難聴の原因となる内耳ギャップ結合形成細胞を、ヒトのiPS細胞から作る技術開発により、遺伝性難聴の病態の再現に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科耳鼻咽喉科学の神谷和作准教授、福永一朗非常勤助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Human Molecular Genetics」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

聴覚障害は出生児1,000人に1人の割合で発症し、先天性疾患の中で最も高頻度に発生する疾患の1つ。その半数以上は遺伝子変異を原因とする遺伝性難聴だ。中でもGJB2変異型難聴は、遺伝性難聴の50%以上もの割合を占めており、世界で最も多いタイプの遺伝性難聴として知られている。GJB2遺伝子がコードするCX26は、内耳の細胞間のイオン輸送を行うギャップ結合の構成要素の一つであり、内耳リンパ液のイオン組成を保つことにより音の振動を神経活動へ変換する重要な分子だが、その変異によりギャップ結合の構造が保てず難聴になる。現時点では、同疾患に対する根本的な治療法や治療薬は存在せず、その開発が求められている。この遺伝性難聴では、iPS細胞などの多能性幹細胞からCX26ギャップ結合を形成する内耳細胞群、特に蝸牛支持細胞の作製が最も重要だ。

研究グループはこれまで、マウスiPS細胞から内耳細胞群を作成し病態の再現に成功しているが、ヒトiPS細胞においては、GJB2遺伝子がコードするCX26による巨大ギャップ結合を形成する内耳細胞の作成技術はなかった。また、マウスiPS細胞から内耳同様にギャップ結合を均一に形成する細胞シートの作製法を開発。この方法により、難聴モデル細胞を作製し、世界で最も多いGJB2変異型難聴の病態をマウス細胞で再現することに成功している。しかし、ヒトiPS細胞から同様の難聴モデル細胞を作製することは困難であり、特に重要なGJB2変異型難聴患者由来のiPS細胞で病態を再現することには成功していなかった。

開発した新規手法で、患者iPS細胞を用いた難聴の分子病態の再現に成功

研究グループは今回、マウスiPS細胞での内耳細胞作製法を改良し、ヒトiPS細胞においてもギャップ結合のネットワークを形成する内耳支持細胞群(蝸牛支持細胞)の作製を試みた。

まず、ヒトiPS細胞を外胚葉に分化させるSFEBq法(無血清凝集浮遊培養法)の過程で、CX26を最も多く発現する三次元培養の条件を選抜。特にインスリンを添加した培養法でCX26発現が顕著に増加した。この三次元培養には他の細胞も混在するため、CX26ギャップ結合が形成される細胞塊を分離し、独自に開発した蝸牛細胞上で培養した。この培養法により、CX26によるギャップ結合を形成する細胞シートが作製できた。作製した細胞シートのギャップ結合は、内耳と同様に細胞間で物質を輸送する能力を保持していたという。さらに、疾患モデル細胞としての機能を確認するため、日本人に典型的なGJB2遺伝子変異を持つ難聴患者のiPS細胞から内耳細胞を作成したところ、難聴発症の原因となるギャップ結合の物質輸送能の顕著な低下が再現できたという。

同研究で開発したヒトiPS細胞の内耳分化誘導法は、iPS細胞から内耳ギャップ結合形成細胞を作製する有効な技術であり、GJB2変異型遺伝性難聴の疾患モデル細胞として、難聴遺伝子変異に対応した大規模な薬剤スクリーニングや遺伝子治療開発への応用が見込まれる。

さまざまな変異型の難聴モデル細胞を作製し総合的な難聴治療法の開発を目指す

今回開発されたヒトiPS細胞から内耳ギャップ結合形成細胞を作製する方法は、これまで根本的治療法の存在していない世界で最も多いタイプの遺伝性難聴の病態を再現できることから、医薬品開発におけるモデル利用を可能とし、難聴研究の臨床応用を実現させる上での大きな成果であると考えられる。さらに、研究グループが開発したギャップ結合の薬剤スクリーニング法や独自の遺伝子治療用ベクター技術を組み合わせることにより、これまで実現されていなかった根本的治療法の開発が期待できる。

研究グループはすでに、日本人に認められる上位3位までのGJB2変異のiPS細胞を樹立している。「今後はさらに多様なGJB2変異型を持つ遺伝性難聴患者のiPS細胞の樹立と分化誘導により、さまざまな変異型に応じた遺伝性難聴疾患モデル細胞を作製し、薬剤開発や再生医療を含めた総合的な難聴治療法の開発を目指していく」と、述べている。

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