ARF6-AMAP1経路阻害は免疫チェックポイント阻害剤に対し相乗的効果を発揮するか
北海道大学は5月18日、モデル実験動物を用い、膵がんに対する免疫チェックポイント阻害療法を改善する方法論の提示に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の佐邊壽孝教授、平野聡教授、橋本あり助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Communication and Signaling」にcommentary(論評)としてオンライン掲載されている。
多くの膵がんは、膵管上皮に由来し、KRAS変異とTP53変異が代表的なドライバー変異として知られている。佐邊教授らの研究グループは、これまでに低分子量Gタンパク質ARF6を基軸とする経路(ARF6-AMAP1経路)が、膵がんを含めさまざまな管腔上皮がんの浸潤・転移、並びに、免疫回避やエネルギー代謝に根幹的役割をしていることを明らかにしている。膵がんでの研究によって、KRAS変異がARF6とAMAP1のmRNA翻訳を促進し両タンパク質が異常に高発現すること、一方、TP53変異がメバロン酸経路活性促進などを介してARF6活性化を促進することも明らかになっている。これまでKRAS変異やTP53変異は発がん促進因子と捉えられていたが、佐邊教授らの研究成果は、膵がんにおいては発がんと悪性度進行とが並行して起こり得ることを明らかにし、膵がんの治療困難性分子基盤を解明した。他のがんではKRASとTP53が同時に変異することはまれだが、悪性度進行と共にこのことや類似のことが起こると推定されるという。
また、MYCと呼ばれるタンパク質の異常発現も発がんやがん悪性度と深く関係することが古くから知られている。KRAS変異がMYC発現を促進すること、MYC mRNA翻訳にはeIF4Aが必要であることはわかっていたが、KRASがeIF4A活性を促進することによってMYC発現に関わっているかは示されていない。
今回の研究では、ARF6-AMAP1経路阻害は免疫チェックポイント阻害剤に対して相乗的効果を発揮するのか否かを検討。その際、eIF4Aを標的としたが、eIF4A阻害がARF6とMYCの両者を抑制するか否か、そのことはKRAS変異がん細胞において、より有効か否かも検討した。
eIF4A阻害剤とPD-1抗体併用で抗がん作用、モデル動物で
研究では、ヒト膵がんに対する代表的モデルマウスであるKPCマウスから樹立した膵がん細胞を、同系野生型マウスに移植する実験系を用いた。ARF6-AMAP1経路はKPC膵がん細胞に異常発現し、浸潤と免疫回避を駆動する根幹であることはこれまでに報告していることから、ARF6-AMAP1経路阻害法としてまずshAMAP1を用い、KPC細胞における本経路阻害がPD-1抗体に対して相乗効果を発揮するか否かを検討した。続いて、eIF4A阻害剤Silvestrolを用いて、同様な相乗効果が見られるか検討した。SilvestrolによるARF6とMYCの発現抑制効果はKRAS変異の有無によって異なるかも培養細胞を用いて検討した。
その結果、shAMAP1処理は膵がんの免疫回避性を低減するが、PD-1抗体との併用によって著しいがん増殖抑制効果を示すことが観察された。また、Silvestrol単剤では、膵がんの増殖を促進したが、SilvestrolとPD-1抗体の併用は著しい抗がん作用を示した。SilvestrolによるARF6とMYCの発現抑制効果は、KRAS変異がんにおいてKRASが変異していない細胞に比べ顕著だったという。
PD-L1抗体、KRAS変異を有する他のがん種での検討に期待
KRAS変異膵がんやARF6-AMAP1経路高発現膵がんにおいて、薬剤によるARF6-AMAP1経路阻害がPD-1抗体療法に対して著しい相乗効果を示すことが動物モデル実験で示された。同様のことは、PD-L1抗体療法においても期待されるという。また、膵がんだけでなく、KRAS変異を有する他のがん種においても期待されることから、検討が望まれる。
「今回はeIF4Aを標的としたが、ARF6-AMAP1経路阻害には、いくつかの増殖因子受容体(実薬としてさまざまな阻害剤がある)やメバロン酸経路(スタチンで阻害)、mTOR(Temsirolimusで阻害)が使える。今後、このような薬剤がPD-1抗体やPD-L1抗体に対し、相乗効果を発揮するのかの検討が望まれる。その際、KRAS変異やARF6/AMAP1の高発現が適用バイオマーカーとして有効であると考えられる」と、研究グループは述べている。
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