治療前にスタチン反応性低下症例を見つける方法の確立へ
国立循環器病研究センターは5月17日、コレステロール代謝を制御するタンパク質、成熟型PCSK9濃度の測定は、スタチンへの反応性低下症例の同定に有用であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター心臓血管内科の九山直人研修生、心臓血管内科部冠疾患科の片岡有医長、同研究所病態ゲノム医学部の堀美香客員研究員、分子病態部の斯波真理子非常勤研究員、野暉夫副院長、熊本大学循環器内科の辻田賢一教授、東北大学循環器内科学の安田聡教授らの研究グループによるもの。研究結果は、「Journal of the American Heart Association」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
LDLコレステロールが高いと、心筋梗塞などの心臓病の原因となる。スタチンは、このLDLコレステロールを低下させる薬剤であり、冠動脈疾患患者においてその使用が日本循環器学会ならびに海外のガイドラインにより強く推奨されている。スタチン反応性低下症例は、心筋梗塞・心不全などの発症リスクが高いことが報告されているが、このような患者をスタチン開始前に見つける方法は確立されていない。
主に肝臓から産生されるタンパク質である成熟型PCSK9は、コレステロール代謝を制御する作用を有している。PCSK9は、成熟型として分泌され、LDL受容体と結合後、分解に導き、血中のLDLコレステロールを上昇させる。一方、細胞内の酵素furinで切断されると、LDL受容体を分解する作用を失う。
同センター研究所の堀、斯波の両研究員は、血液中の成熟型とfurin切断型PCSK9濃度を分けて測定する方法を2015年に世界で初めて開発している。今回の研究は、スタチンの効果における成熟型PCSK9の関与を解明することを目的に行われた。
成熟型PCSK9高濃度の症例、スタチン反応性低下を示すリスクは12%高い
研究では、同センターに入院し、スタチン内服治療を受ける冠動脈疾患症例101例を対象に、血液中の成熟型PCSK9濃度を測定した。スタチン投与開始後のLDLコレステロール値を基に、スタチン反応性低下症例との関係を検証した。
そのうち、スタチン投与にもかかわらず、11例(11%)はスタチンの効果が乏しく、LDLコレステロールのコントロールは不良だった。また、このようなスタチン反応性低下症例では、血液中の成熟型PCSK9濃度が有意に高値であることがわかった。
成熟型PCSK9濃度高値を示す症例は、スタチン反応性低下を示すリスクを12%高める有意な因子であることもわかった(オッズ比1.12、95%信頼区間1.01-1.24、p値=0.03)。スタチン反応性低下症例を予測しうる血液中の成熟型PCSK9濃度のカットオフ値は228ng/mlだった。
成熟型PCSK9濃度測定による、個別化医療の実現へ
今回の研究は、コレステロール代謝を制御するタンパク質、成熟型PCSK9に注目した。101例の冠動脈疾患症例の解析により、成熟型PCSK9濃度の上昇は、スタチンの効果減弱に関与することを明らかになった。
研究代表者の片岡医長は、LDLコレステロールのコントロールが不良な患者は、心筋梗塞や心不全などの発症・再発リスクが高いことをすでに報告している。
「研究結果から、成熟型PCSK9濃度測定は、薬剤治療開始前にスタチン効果の予測において有用である可能性が示唆された。成熟型PCSK9濃度測定を行うことにより、心臓病発症予防・再発を目指した個別化医療の実現にもつながるものと期待される」と、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース