腸を介したガス交換は哺乳類でも可能なのか?
東京医科歯科大学は5月15日、重篤な呼吸不全に対して、腸換気法が有効であることを突き止めたと発表した。この研究は、同大統合研究機構の武部貴則教授の研究グループと、名古屋大学大学院医学系研究科呼吸器外科学の芳川豊史教授および京都大学呼吸器外科の伊達洋至教授との共同研究グループによるもの。研究成果は、「Med」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連重症呼吸器合併症においても認められる低酸素血症を伴う呼吸不全に対し、生命維持を目的として人工呼吸器や人工肺(ECMO)による集中治療が行われている。しかし、これらの医療機器は、高度な専門性と莫大な費用が必要とされることに加え、治療に伴う身体への負担や侵襲が大きいことが課題とされていた。そのため、従来治療の負担を軽減するため、新たな呼吸管理法の開発が望まれていた。
水棲生物の中には、ドジョウのように低酸素環境下で生存するために腸から呼吸をするという独特な仕組みを持つ生物が存在する。しかし、腸を介したガス交換が哺乳類についても可能なのかについては解明されていなかった。研究グループは今回、腸を用いたガス交換を行うことにより、血中酸素分圧の上昇を可能にするEVA法を開発した。
動物実験で、重篤な副作用や合併症なく全身の酸素化の大幅な改善を確認
まず、マウスに対して腸管内に純酸素ガスもしくは酸素が豊富に溶けたパーフルオロカーボンを注入する2つの方法(EVA法)を開発。マウスⅠ型呼吸不全モデルも作製し、EVA法を検証した。次に、ラットを用いて、治療による重篤な有害事象が認められないか安全性試験を行った。さらに、慶応義塾大学医学部・小林英司客員教授協力のもと、ブタモデルを用いてEVA法の有効性検証を実施した。
その結果、マウスにおいて、2つのEVA法のいずれも血中の酸素分圧が著しく低下した重篤な呼吸不全状態を改善し、生存率、行動変容、全身の酸素化を大幅に改善することが判明した。また、ラットを用いた安全性試験においても、腸管粘膜の損傷や障害は認められず、血液生化学検査や病理組織学的評価においても明らかな副作用は認められなかったという。さらに、Ⅰ型呼吸不全モデルブタを用いた実験においても、治療に伴う重篤な合併症は生じず、全身の酸素化を大幅に改善することが示されたとしている。
将来的には臨床現場だけでなく、救急領域での利用にも期待
EVA法は、臨床現場における新たな呼吸管理法としての応用可能性を有しており、肺を直接介さずに呼吸不全を緩和できる可能性がある。臨床現場への応用を実現するためには、EVA法に使用されるデバイスを医療用機器として開発していくことが求められるため、企業などとも協力のうえ、臨床現場で運用が可能な手法を開発し、さらなる有効性と安全性を検証していくことが必要だ。
「将来的には、人工肺や人工呼吸器の離脱促進や、呼吸不全の症状緩和を目的とした補助的使用など、さまざまな臨床シーンでの展開が期待される。さらに、従来治療の適応外の患者への使用、救急領域においては、上気道閉塞の患者に対する急性期の呼吸管理法としての利用も想定される」と、研究グループは述べている。
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