「感謝の感情」が大学生の学習モチベーションに与える影響は?
情報通信研究機構(NICT)は5月13日、日常生活の中で起こるさまざまな出来事や、その対象となる人々に感謝したことを記録することにより、学習モチベーションが向上することを、クラウドシステムを使って実験的に明らかにしたと発表した。この研究は、NICT未来ICT研究所脳情報通信融合研究センター(CiNet)のNorberto Eiji Nawa主任研究員と、立命館大学グローバル教養学部の山岸典子教授が、NICTと立命館大学の共同研究として行ったもの。研究成果は、「BMC Psychology」に掲載されている。
画像はリリースより
ヒトは「感謝すること」で、「幸福感」が向上し、「ウェルビーイング」とよばれる身体的、精神的、社会的に良好な状態が向上することが、ポジティブ心理学の研究で広く支持されている。しかし、「学習モチベーション」の向上に「感謝の感情」が影響しているかどうかはわかっていなかった。
これまで、良いことをしてくれた人に対して「感謝の手紙」を書いて渡すことで「学習モチベーション」が向上するかどうかを調べる実験が行われたが、「学習モチベーション」の向上は見られず、感謝の手紙を1回書くだけなので「感謝の感情」の変化による影響が小さかったのではないかと議論になっていた。そこで今回、感謝について1回考えるのではなく、2週間にわたって、毎日、感謝したことや感謝した人のことを書く、「感謝日記」を利用する方法を用い、「感謝の感情」が大学生の「学習モチベーション」に与える影響を確かめる実験を行った。
毎日の「感謝日記」の記録と、心理的効果の計測を同一クラウドシステムで実現
今回、共同研究グループは、独自のクラウドシステムを開発することで、毎日、感謝したことを書く「感謝日記」を記録するとともに、学習モチベーションなどの心理変化を記録することを可能とし、これにより、感謝について記録することが、学習モチベーションを向上させることを明らかにした。また2週間の「感謝日記」の学習モチベーションへの効果は、1か月後、3か月後でも維持されることがわかった。
今回の実験の特徴は、カレンダー型のインターフェースを持つクラウドシステムの利用により、これまでの紙媒体の「感謝日記」では難しかった、毎日、長期間にわたり、確実に1日に1度、感謝したことを振り返る時間を持つことを、容易に遂行できるようにし、電子化によって解析が容易になった。なお、この実験は、2019年の春休みと夏休みの期間に行われた。
2週間の「感謝日記」で学習モチベーション向上を3か月維持、無気力も低下
実験参加者は84名の大学生で、「感謝日記」を書くグループと、書かないグループに、ランダムにグループ分けされた。どちらのグループの参加者も、それぞれの日常生活の中で、1日に1回、スマートフォンやPCから、クラウドシステムにアクセスした。システムにログインすると、カレンダーが現れ、その日に行うことが示され、「感謝日記」の記述や、心理指標課題に取り組んだ。
その結果、「感謝日記」を書くグループのうち、与えられた課題をほぼ毎日行った実験参加者は、学習モチベーションが有意に向上したことがわかった。また、この効果は、3か月後まで維持されることもわかった。これに対し、「感謝日記」を書かなかったグループでは、学習モチベーションの有意な変化はなかった。
さらに、学習モチベーションを構成する3つの要因(内発的モチベーション、外発的モチベーション、無気力)のうち、「感謝日記」を書くグループでは、無気力要因が2週間で下がることが判明。つまり、2週間にわたって、毎日、感謝を記録する時間を持つことで、「無気力」が下がり、学習モチベーションが上がることが、実験で明らかとなった。
学習モチベーションに、感謝の感情が影響を与えるという今回の研究結果は、「感謝日記」のような感謝する機会を提供することで、学習モチベーションを向上させることができることを示唆している。教育現場で、既存のモチベーション改善プログラムに加えて、感謝することを活用した、数週間程度の比較的短い期間で、数か月におよぶ効果のある、モチベーション向上プログラムの開発に役立てられることが期待されるという。研究グループは今後、今回明らかになった学習モチベーションの向上を裏付ける、心理学的・脳科学的メカニズムの解明を目指すとしている。
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・情報通信研究機構 プレスリリース