従来の観察研究では交絡の影響、正確な評価が困難
国立がん研究センターは5月11日、日本ゲノム疫学研究コンソーシアム(J-CGE:Japanese Consortium of Genetic Epidemiology studies)を構築し、メンデルのランダム化解析により、BMIと大腸がんリスクとの関連をアジア人で分析し、遺伝的に予測されるBMIが1単位増加すると、大腸がんのリスクが7%増加することが示唆されたことを明らかにした。この研究は、同センター、横浜市立大学、岩手医科大学、東北大学、名古屋大学、名古屋市立大学、愛知県がんセンター、筑波大学などの研究者で構成される研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」に掲載されている。
大腸がんの危険因子は、疫学研究などにより、喫煙や飲酒、肥満との関連が示されており、国立がん研究センター「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」では、喫煙や飲酒は「確実な」危険因子、肥満は「ほぼ確実な」危険因子と判定している。肥満が「確実な」危険因子の判定となっていない理由の1つとして、日本人のBMIは世界的に見て低く、日本人集団のBMIの範囲では、大腸がんリスクへの影響は小さい可能性が挙げられる。そのほか、従来の観察研究は、因果関係でない、見かけ上の関連をみている可能性を否定できないことが考えられる。BMIが高い集団とBMIが平均的な集団の大腸がんリスクを正しく比較するには、両集団で背景因子(喫煙や飲酒など)が均等であることが条件となる。
背景因子を均等にする方法として、ランダム化比較試験が挙げられる。大規模な人口を対象とした社会医学研究では、実施困難であることも少なくない。また、従来の観察研究では、両集団の背景因子を均等にすることが困難なため、両集団で大腸がんリスクに違いがあっても、BMIと大腸がんリスクとの間に因果関係があるかどうかを明確に示すことができない。この問題を交絡と呼ぶ。
画像はリリースより
メンデルのランダム化解析により、遺伝的に予測されるBMIと大腸がんリスクを比較
メンデルのランダム化解析は、ゲノム情報で予測した形質(髪の色など外に現れる性質や形)と疾病リスクとの関連を推計することにより、この従来の観察研究で問題となる交絡に対処しようとする方法。同解析では、一塩基多型などの遺伝子多型がランダムに分配されるというメンデルの法則を利用して、BMIそのものではなく、ゲノム情報で予測されるBMIを用いて、大腸がんリスクを比較する。ゲノム情報で予測されたBMIの高い集団と低い集団の間では、背景因子が均等になることが期待されることから、従来の観察研究に比べ交絡の影響を受けにくいという特徴がある。
そこで、今回の研究では、BMIに関係する一塩基多型を用いて、メンデルのランダム化解析により、遺伝的に予測されるBMIと大腸がんリスクとの関連を検討した。まず、メンデルのランダム化解析で使用する、BMIに関係する一塩基多型として、1)日本人で関係が報告されている68個の一塩基多型のセット、2)世界中で報告されている一塩基多型の情報を集めたデータベースであるGWASカタログから、網羅的に同定した654個の一塩基多型のセットを作成した。68個の一塩基多型は日本人のBMIのバラつきの約2.0%を説明し、654個の一塩基多型は約5.0%を説明すると推計された。
BMI1単位増加あたりのオッズ比1.07倍と推計
この2つの一塩基多型のセットについて、J-CGEの日本人一般集団約3万6,000人でBMIとの関連、大腸がん約7,500症例と対照3万7,000例において大腸がんとの関連を分析した。一塩基多型のセットとBMIの関連は各コホートで分析され、それを統合する形で算出した。
その結果、一塩基多型-BMIの関連が大きくなるほど、一塩基多型-大腸がんの関連が大きくなっていることがわかった。メンデルのランダム化解析により、ゲノム情報から予測されるBMI1単位(kg/m2)増加あたりのオッズ比を計算すると、68個の一塩基多型のセットを用いた解析では、1.13倍(95%信頼区間:1.06-1.20)、654個の一塩基多型のセットを用いた解析では、1.07倍(1.03-1.11)と推計された。
大腸がん予防法検討時のエビデンスに
メンデルのランダム化解析により妥当な結果を得るためには、いくつかの前提条件を満たすことが必要だが、そのことを証明することはできないため、今回の研究結果を因果関係と解釈できない可能性は残る。また、メンデルのランダム化解析では、遺伝的に(ゲノム情報から)予測されるBMIと大腸がんリスクとの関連を評価している。BMIは、遺伝要因と環境要因の両者によって決まり、食行動や身体活動量などの環境要因により生涯を通して変動する。同研究に用いたゲノム情報から予測されたBMIは、生涯の平均的なBMIを反映しているかもしれないため、研究結果は、ある時点に測定したBMIと大腸がんリスクとの関係を見る研究結果よりも、大きなオッズ比を示している可能性がある、としている。
しかし、従来の観察研究と比べ、交絡の影響を受けにくいメンデルのランダム化解析においても、BMIが大腸がんリスクと関連していたことは、大腸がんの予防法を検討する際に役立つエビデンスであると考える。今後も、BMIと大腸がんの関係をつなぐ基礎研究に加え、メンデルのランダム化解析を含めさまざまなアプローチによる疫学研究からのエビデンスの蓄積が望まれると、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース