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攻撃行動の個体差に脳内IL-1βが関与、雄マウスの実験より-筑波大ほか

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2021年05月12日 PM12:30

炎症性サイトカインの血中レベルは、攻撃性と正の相関が報告されている

筑波大学は5月11日、雄マウスを用いて、免疫系の情報伝達分子であるサイトカインの1つ、インターロイキン1β()が、背側縫線核という脳領域に作用し、攻撃行動の個体差に影響を及ぼしていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大人間系の高橋阿貴准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Psychiatry」に掲載されている。


画像はリリースより

近年、精神疾患と免疫系の関係が徐々に明らかになってきており、統合失調症、うつ病などさまざまな精神疾患において免疫系の異常が報告されている。さまざまな精神疾患の周辺症状の1つに攻撃性(易怒性)があり、免疫系の情報伝達物質である炎症性サイトカインの血中レベルは、攻撃性とも正の相関があることが報告されている。しかし、免疫系がどのように神経系の働きに作用し、攻撃行動に影響を与えるかは、ほとんどわかっていなかった。そこで研究グループは今回、免疫系と攻撃行動の関係とその作用メカニズムを、マウスを用いて調べた。

攻撃性の違う雄マウスで実験、血中サイトカイン濃度に差はなし

研究グループはまず、同じ系統の雄マウスの攻撃行動の個体差に着目した。1個体ずつ飼育されているホームケージ(なわばり)に、侵入者として別の雄が入ってくると、多くのマウスは侵入者に対して攻撃行動を示すが、一部は攻撃行動を全く示さない。これらの個体の血中の複数のサイトカイン濃度を調べたところ、侵入者がいる場合に、IL-1βをはじめとしたいくつかのサイトカインが増加したが、攻撃個体と非攻撃個体の間には差が見られなかった。

脳領域DRNのIL-1βが攻撃個体よりも非攻撃個体では多かった

一方、いくつかの脳領域ごとのIL-1β量を測定したところ、(DRN)のIL-1β量が、非攻撃個体では攻撃個体よりも多いことがわかった。薬理学的手法と遺伝学的手法を用いて、DRNにおけるIL-1β受容体だけを阻害すると、雄マウスの攻撃行動が増加した。このことから、DRNから発生するIL-1βシグナルが、攻撃行動の発現を抑制していることが明らかになった。

DRNのミクログリア<IL-1β産生<セロトニンニューロン活性低下<攻撃行動減少

次に、非攻撃個体で増加しているIL-1βの由来を調べたところ、DRNのミクログリア(脳内免疫細胞)において、高いIL-1β mRNAの発現が観察された。さらに、攻撃個体と非攻撃個体で、攻撃行動中にDRNのどの細胞が活性化しているかを、神経活動マーカー(c-Fosタンパク質)を使って調べると、神経伝達物質であるセロトニンを放出するセロトニンニューロンの活性化レベルが異なること、また、IL-1βの作用を阻害すると、DRNセロトニンニューロンのc-Fos発現が増加することがわかった。このことから、DRNのミクログリアにおいて産生されるIL-1βが、神経伝達調節因子としてセロトニンニューロンの活性を低下させ、これにより雄マウスの攻撃行動が減少する、という脳内メカニズムの⼀端が明らかになった。

今後、ヒトにおける問題行動としての過剰な攻撃性の研究へ

IL-1βは、病気の時に特徴的な発熱や、活動性、意欲の低下などに関与することが知られているが、今回の研究により、病気にかかったときだけでなく、健常な動物の行動の個体差を生み出す上でも、内在性のサイトカインが重要な役割を担うことが示された。

また、マウスにおいては、IL-1βが攻撃行動を「抑制する」というメカニズムが明らかになったことから、ヒトにおける攻撃性と、動物モデルにおける攻撃性には違いがあることが示唆された。つまり、雄マウスのなわばり性攻撃行動は、動物にとって適応的な行動としての攻撃行動であるのに対し、ヒト研究が対象とする攻撃性は、多くの場合、適応的な行動とは言えず、むしろ問題行動としての過剰な攻撃性と考えられる。研究グループは今後、ヒトにおける過剰な攻撃行動のメカニズム解明に向け、過剰な攻撃行動を示す動物モデルを用いて、免疫系の関与をさらに研究していく予定だとしている。

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